妊娠中絶を決めた妻に次々と起こる怪奇現象。妻は霊にとり憑かれてしまったのか。恐怖と愛情に心が引き裂かれそうになる若き夫を助け一人の精神科医が戦いを始める。妄想か心霊現象か。戦慄に満ちた愛情を描く。
(高野和明)1964年東京都生まれ。ロサンゼルス・シティカレッジ中退。帰国後脚本家となる。本作で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。主な著書に 『13階段』 『グレイヴディッガー』 『幽霊人命救助隊』 など。
マタニティヒステリーの話と言えばそれまでですが、説明しきれない妊娠した妻の豹変ぶり、夫へも影響を及ぼす精神障害とそれと闘う精神科医の攻防がすごいです。夫側の視点と医者の視点の書き分けが見事ですね、夫は妻の異変は憑依だと信じているし、医者はあくまでも精神障害だと理解しようとする、そのせめぎあい。妻の豹変ぶり(憑依ぶり?)には読者も衝撃を受けます。
世の中には理屈で通らないことも多いがそれを第三者の立場を崩さず冷静に見つめ続けようとした精神科医 磯島の視点を見事に描いた、本作も秀作です。人物設定も細やかで適当さを微塵も感じさせない小説、これぞ小説のあるべき姿ですね。
評価:(5つ満点)