犯行時刻の記憶を失っている死刑囚。その冤罪を晴らすべく刑務官だった南郷は前科を背負った青年 三上と共に調査を始める。手掛かりは死刑囚の脳裏に甦った 『階段を上った』 という記憶のみ。処刑までに残された時間はわずか。2人は無実の男の命を救うことができるのか。事件を追うごとに徐々に事件の側面が明らかになってゆく。江戸川乱歩賞受賞作。
(高野和明)1964年東京都生まれ。ロサンゼルス・シティカレッジ中退。帰国後脚本家となる。本作で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。主な著書に 『グレイヴディッガー』 『K・Nの悲劇』 『幽霊人命救助隊』 など。
見事としか言い様のないプロット、そして人の狂おしいまでの想い、愛情。久々に読みながら 『あっそうか!』 と叫んでしまいました(笑)、見事な構成です。薬丸岳が読んで感銘を受け、小説家になる決意をしたという一作、というのにも深く頷けてしまいました。コレはとにかくスゴイです、恐るべし乱歩賞。
物語は最初からちゃんと読者にヒントを与えながら進んでいきます、何度も言っておりますがいきなりラストで大ドンデンという物語はキライですね。本作は何度も途中で 『そういえばアレは?』 と反芻して楽しめた、本当にミステリーらしい秀作です。この読書の合間の、本の中身について考えを巡らせる時間を持つということが、もしかすると読んでいる時より楽しく読書の醍醐味というのかもしれない、といつも思います。
主人公は南郷ですが時折はさまれる一人称三上の箇所もいいですね。隠した過去を匂わせつつ事件は真相へ、一体誰が善で誰が悪か?先入観というものは本当に恐ろしいです。元刑務官 南郷と中堅検事 中森の、正義を正義として全うさせたいという強い信念には救われる想いがします、こういう人達もまだ実際に現場にいるのだと信じたいです。
これ以上言うとネタバレですが、本作は死刑制度の仕組み、前科を持つということ、保護観察の仕組み、そして町工場の高い技術力(!)など様々な要素も織り交ぜたヒューマンドラマとして成り立っており、お見事です。よい小説とは経験ではなく作家の素質かもなやっぱり。と乱歩賞作品一覧を眺めて思っています。他の著作も読まなきゃ、今回も必読です。
評価:(最近アタリが多いわ)