でもこの数学の先生は面白かった(キャラが)。テストは全然点が取れなかったけど。いつもテストの平均点は17〜25点前後(※100点満点)。20数点取って平均超えだったことが一度だけあり、私は小躍りしてしまいました。多分先生自身も上から怒られていたらしく、テスト前にはいつも 『今回のテストは平均点が60〜70点になるように作ったからっ』 と言っていて、フタを開けるといつもと同じ。そして 『なんて平均点が低いんだろうなぁー』 と先生いつも本気で悩んでいた。そりゃ、難しすぎるからでしょ…。
こういうところがまず石神そっくりだと思ってしまった。石神ほど傲慢さはなかったけど…。
石神はいつの日か、自分のこの頭脳で完璧な定理、証明を作り上げたいと常々思っていた。そこへ突然降って沸いたのが、好意を寄せていた隣人の女性とその娘の犯してしまった犯罪だった、というところから物語が始まります。
私の感想は、石神の取った行動、母子を守るための完全犯罪計画立案が、当初は母子を守りたいという一心だけだった、とは言いがたいのではないかと思うのです。しかし計画を予定通り進めていくうちに、石神にとって完全なる証明(完全犯罪)よりも、母子を守り通したいという気持ちの方が大きくなっていったのではないか、と思います。
このような気持ちが、数学にしか興味がないと思い込んでいた学生時代の友人、湯川にとっても、そして何より石神自身にとっても意外だったのではないかと思うのです。
ちょっと軽めのシリーズだと思っていた 『探偵ガリレオ』 こと物理学者 湯川学シリーズですが、今回は秀逸にできています。湯川と石神が学生時代友人であった、という設定も大変重要、よく活かしています。
石神の台詞 『かつて自殺しようとしていた自分を思い留まらせてくれた母子への、せめてもの恩返しだ。』 という動機を語る言葉が沁みました。事の大小ではなく、人は感謝する心によりここまで決意し行動できるものか、と。
仕掛けも見事です、エンタメ作品としても人と人とのつながりを考えさせる作品としても、とても良かった。ラストも東野作品では最高傑作です。
本屋大賞2006第4位