警察内部の犯罪を追う監察官はあくまで陰の存在。隠密行動を貫いて警察内の密猟者を狩り出してゆく。監察チームの頭脳プレーを描く警察インテリジェンス小説。小説新潮掲載を単行本化。
(乃南アサ)1960年東京都生まれ。早稲田大学中退。広告代理店勤務等を経て作家活動に入る。『幸福な朝食』 で日本推理サスペンス大賞優秀作、『凍える牙』 で直木賞を受賞。主な著書に 『涙』 『鍵』 『しゃぼん玉』 など。
(収録作品)禁猟区/免疫力/秋霖/見つめないで
さすが乃南アサ、本当にハズレなしです。今回も秀逸でした。
警察官になる位なので誰しもそれなりの正義感を持っていたはずなのに、それがどこで間違ってしまったのか。独りよがり、自己顕示欲、そういったことから徐々に正道からズレていく警察官達。倫理とは何か、を常に自分に問うて生きて行かなくてはならない立場にある、という自覚に加え、多くの警察官が抱えるのは
『孤独』 という性質では。一人で判断し行動することが多い一人職場、それもやはり同僚、仲間がいなくては人は道を誤るということでしょうか。
どの話も秀逸ですが、ラストの
『見つめないで』 ストーカーの話、お見事でした。犯人はもう分かっているのにどうして…どうも信じられない…と何度も怪しんでしまう。乃南氏の人物描写、心の機微が素晴らしいです。人は本当に危うい存在であるし道を誤ることもある。だからこそ愛おしいのかもしれません。
悪人を描きながら悪人になりきれない人々を、温かく見守る著者のまなざしが、読んでいて本当に心地よい一冊。
評価:




(5つ満点)
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