もうすぐ3歳になる息子のため引っ越した私達。手頃な一軒家の隣には6人兄弟を抱える大家族が暮らしていた。賑やかで奔放な隣家の人々だったが毎週金曜のある出来事が徐々にその生活を脅かしていく。表題作と中国人留学生達の今を描く 『ピラミッドの憂鬱』を収録。群像掲載を単行本化。
(楊逸)ヤン・イー。1964年中国ハルビン市生まれ。お茶の水女子大学卒業。在日中国人向けの新聞社勤務を経て中国語教師。『ワンちゃん』 で文學界新人賞、『時の滲む朝』で芥川賞受賞。著書に 『金魚生活』 『すき・やき』 。
(収録作品)ピラミッドの憂鬱/陽だまり幻想曲
陽だまり幻想曲
ずっとホンワカ系の小説を書いてきた楊氏だったので、ラストの展開には衝撃を受けました。世間に良くある、孤独に陥りがちな子育て中の主婦が、一人息子にせがまれて2人目を産む決意をした途端、隣家に起こる事件。
よくある事件ながら実際に隣人として遭遇すると、こういう風に衝撃を受けるんだろうな、と思います。リアル、を本当にリアルとして感じ取るのが難しい時代になったのかもしれない、と思うのです。
ピラミッド
こちらも日本人社会から見るとあり得なくてとんでもない事件が起こりますが、その社会で生きている人々には当たり前のことであり、ワイロをもらいそのワイロを貯めて国外にいる息子に送金しちゃう、なんて日本でやったら相当な重罪になりますが、中国ではそれをフツーの人達がやってしまう、という現実。それもさほどの罪悪感もなしに。
いずれも主人公の視点の捉え方が定まっており、見事な仕上がりです。物事は、視点によってかくも大きく変わるものです。
評価:




(5つ満点)
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