これはあまりにも極端な例としても、親の果たすべき役割とはなんでしょう。結局けい子はわずかなお金を残し、子ども達をまだ12歳の長男に託し、男の元へ行ってしまうのです。
『おかあさんいつ帰ってくるの?』 と尋ねる幼い弟、妹を抱え、今まで通りの生活を維持しようとする長男、明。母親の言いつけ通り、ルールを守って生活しようとする兄弟達。その生活は苦しくとも、誰にも頼らず全てを受け止めて生きている。食事をし、洗濯をし、兄弟で遊び、そして眠る。その繰り返し。一片の迷いもないのです。
だんだんと所持金が少なくなってくる中、電気やガス、ついに水道までもが止まっても、公園の水道へ洗濯と水汲みに行きなおも生活を維持しようとする明たち。
周囲の人々とのつながりの描き方も秀逸です。
母親の元恋人達を訪ね無心をする明、近所のコンビニの親切な店員達、友達になった女子高生。周囲の人々と明との会話を通じて子ども達が学校へ通わない状況、福祉施設に助けを求めない理由、などが明らかになってきます。無理な説明ではなく流れの中でこれまでの兄弟の処遇や徐々に厳しくなってくる生活の様子が表現されています。
明にとって永遠の憧れの場所 『学校』 。明は何度もそこへ足を運びます。妹ゆきがけがをして倒れていた際も、明は学校で借り物のユニフォームに身を包んで野球の試合に出ていました。全てを忘れて楽しい時間を過ごして戻ってきた明が目にしたものが、横たわって動かない幼い妹の姿。
この対比が、衝撃でした。
明は最初から最後まで一度も泣きません。ただ全てを受け止めてその日その日を生きていたのです。
ゆきが亡くなった後も、夏の暑い中子ども達は今日も公園へ洗濯と水汲みに出かけます。そんな日がこれからも続いていくのでしょう。
狙いすぎだという批評も多く見ましたが、私は見事な作品と思います。ただフランス人受けするだろうな、という気も何となくします。 『監督に言われた通りにやっただけ』 という柳楽くんですが、彼の演技に惜しみない拍手を送りたいと思います。