雛祭りにようこがおばあちゃんにお願いしたのはリカちゃん人形だったのに、おばあちゃんから贈られたのは日本人形の 『りかさん』 だった。落胆するようこだったがおばあちゃんの言う通り、りかさんのお世話をしているとりかさんがある日ようこに話しかけてきたのだ。人形達の気持ちを聞き取り、ようこに伝え、人間との仲立ちをするりかさん。ようこをそばで見守るりかさんとようことの触れ合いの日々を描いたファンタジー。
(梨木香歩)1959年生まれ。児童文学者のボーエンに師事。 『西の魔女が死んだ』 で日本児童文学者協会新人賞、『裏庭』 で児童文学ファンタジー大賞を受賞。主な著書に『からくりからくさ』 『エンジェルエンジェルエンジェル』 『村田エフェンディ滞土録』 『春になったら苺を摘みに』 、絵本に 『ペンキや』 『マジョモリ』 『ワニ』 『蟹塚縁起』 など。
(収録作品)りかさん/ミケルの庭
久々に一気読みしました。
『りかさん』 でも
『ミケルの庭』 でも、梨木氏の一人称感覚の素晴らしさに感嘆です。
『からくりからくさ』 読後だけに、一層
『りかさん』 のりかさんもようこも、
『ミケルの庭』 の蓉子も紀久も与希子も、愛しくてなりません。
【りかさん】
人はみな
『ホーム』 を持っている。背守の君が 『帰りたい』 と泣くのもホーム。蓉子達が生み出す全ての作品にとっても、工房である 『ホーム』 がある。ミケルにとっての 『ホーム』 ももちろんこの家。
からくりからくさの蓉子が神秘的なだけに、彼女の幼い頃を描いた本作はよく理解できるし、逆に大人になった蓉子が神秘的な雰囲気をかもし出すのも本作の経験で納得がいく。
【ミケルの庭】
『りかさん』 が
『からくりからくさ』 以前の物語ならば、こちらはその後の物語。妊娠したマーガレットが出産した幼い娘、ミケル。マーガレットが短期留学中にミケルは生死の境をさまよう。幼い命を預かった蓉子達の奔走ぶり、狼狽ぶり。
からくり、では比較的冷静な印象だった紀久が、本作ではミケルに対する複雑な想いを顕わにしそれに苦悩するところに好感が持てる。同時にからくり、では天真爛漫ぶりが全面に出ていた与希子も、本作では判断が早く全力投球する率直さが表現されており、それを見てまた紀久が落ち込み、更にそれを見た蓉子が紀久を慰めるシーンが素晴らしい。彼女らは既に、1つの完全な家族なのだ。
戻ってきたミケルと紀久が手をつなぐシーン。紀久もまた、ミケルの母なのだろう。文庫版のみの掲載の本作だが、必読。
評価:




(5つ満点)
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