蝉は土中で成長し、地上に出てからは7日で死んでしまう。しかし8日目まで生き延びることができたら、新しい世界が見えるのではないだろうか?8日目が来ることを信じ不倫相手の生まれたばかりの子どもを誘拐してしまった希和子。誘拐犯に育てられた子どもである恵理菜。それぞれの心を描き、家族という不可思議な枠組みに迫る。読売新聞連載、中央公論文芸賞受賞作。
(角田光代)1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。『幸福な遊戯』 で海燕新人文学賞、『まどろむ夜のUFO』 で野間文芸新人賞、『ぼくはきみのおにいさん』 で坪田譲治文学賞、『キッドナップ・ツアー』 で産経児童出版文化賞フジテレビ賞、路傍の石文学賞、『空中庭園』 で婦人公論文芸賞、『対岸の彼女』 で直木賞を受賞。 主な著書に 『この本が、世界に存在することに』 『あしたはうんと遠くへいこう』 『庭の桜、隣の犬』 『ピンク・バス』 など。
0章、1章、2章という組立てがいい。
0章、1章は誘拐犯である希和子の一人称なので、ここだけ読んでいると希和子に感情移入してしまいつい応援してしまう。この小説のすごいところは2章だ。
2章では誘拐され4年後に実の親の元に帰された恵理菜の、
『誘拐され誘拐犯に育てられた子』 としての苦労がまざまざと書き綴られており、気が滅入りそうになる。しかし恵理菜がだんだんと事件のことを振り返っていくと同時に読者も事件の真相を知ることとなるのだ。
いったい誰が悪いのか。恵理菜の父である秋山も、母である秋山の妻も、そして希和子もみな愚かな大人だ。間違いなくその犠牲になったのは恵理菜。ただ3人の愚かな大人達は本当に愚かなだけで、つまり幸せを掴む力が弱かった、それが愚かということなのだろうか?
両親も、赤ちゃんの頃誘拐された子ども、という自分の運命も、すべて諦めて恵理菜は大学生になっている。そして自分も愚かな大人と同じように、愚かな大人と不倫の関係にある。その中で恵理菜は自分自身を見つけようともがき始めるのだ。
きっかけはエンジェルホームで出会った千草。このエンジェルホーム、という設定も上手い。宗教色の濃い団体の共同生活を送るためのこのホームならば、確かに誘拐した子どもを連れた希和子が何年も身を潜めることができたというのも納得できる。そのホームでの出会いが希和子と薫を小豆島へ誘い、描かれる小豆島の人々の優しさと美しい自然がこれまたいい。
設定、場面展開、実によく練りこまれた完全な小説だが、その上で琴線に響くシーンがこれまたいい。
希和子と薫が別れる時の一言
『その子はまだ朝ご飯を食べていないの』 。ぐあーん。と来る。
母として…子どもには朝ごはんを食べさせましょう。じゃなくて人は愛すべき、守るべき者があれば生きていけるのだと、その守るべき者のために生きるのだと強く訴えてくる小説。角田氏はやはり
テーマ【家族】が上手い。必読。
評価:





(必読。)
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