急死したはずの父親から送られてきたメール。創薬化学専攻の大学院生 研人はその遺書を手掛かりに父の遺した私設実験室に辿り着く。一方、傭兵のイエーガーはアフリカの地で 『人類全体に奉仕する仕事』 を請け負うが、その作戦には人類の存亡がかかっていた。『野性時代』 連載を単行本化。
(高野和明)1964年東京都生まれ。ロサンゼルス・シティカレッジ中退。帰国後脚本家となる。『13階段』 で江戸川乱歩賞を受賞。主な著書に 『グレイヴディッガー』 『幽霊人命救助隊』 など。
直木賞候補作。ちょうど選考期間にあたっていたこの時期、もう直木賞は間違いなくもらった~!と思っていたのにぃっ。これが賞をもらわなければ選考委員の方々は一体何を読んでいたのか?と1人盛り上がる私。久々に夢中で読みました、PCを起動するわずかな時間もページを繰る始末。車に乗せていたらきっと赤信号の時も読んだに違いない…読了して良かったです。
日本で創薬(薬の開発)を学ぶ大学院生の研人と、アメリカ人で現在はアフリカで活動してる傭兵のイェーガー。この全く異なる環境の2人の物語が入れ替わり進行しますが、一体どこで交わるのか、がすごく巧くて面白いです。久々にスケールの大きいエンターテイメントに出会いました。
近未来ファンタジーでありながら、大国の正義という名の欺瞞、難病治療、そして人類の進化!! という壮大なテーマを全て盛り込み、見事に伏線を回収して着地させたプロットはもう、さすが。映画のような展開でした(映画化は残念ながら映像的にムリでしょう)。
評価:(やっぱりエンタメがお好き)
始めはお互いを値踏みし合っていたプロジェクトチームの傭兵ら4人が、困難な状況と次々と乗り越えていくうちに徐々にチームとして結束を固めていく様子、超人類である 『彼』 の恐るべき頭脳、インターネットを駆使したアフリカのジャングルからの脱出、どれを取ってもすごすぎます。脱出ルートの設定がまたすごい、そしてこのルートを採ることができるチームを編成できたのも、やはり 『彼』 の立てた作戦のうち、ということにも驚愕。
アフリカ、コンゴ民主共和国(旧ザイール)の武装勢力、子ども兵、原住民の人々の暮らし、知らないことばかりです。更に遺伝子による不治の病、その難解な病気の仕組みと治療薬のない状況、患者達を救う創薬という分野。そして、人類を越えたという超人類の出現。これホントウかーと思いつつ引き込まれていく、この途方もない世界。
厚い本が読み進めて行くに連れて栞の位置が移動し、それを見るたびに 『もう終わっちゃうのかー終わらないでおくれー』 と思う気持ちを、久々に味わわせてくれた一冊でした。ファンタジーのような荒唐無稽な話に、綿密な取材と情報収集でリアリティを出しています、巻末の参考文献の羅列と取材先各位へのお礼。これだけやってこそ、この仕上がりなのです。
ミステリー、SF、ファンタジー、アクション、そして人類愛。フィクションの醍醐味を120%味わえる高野和明著作、ぜひ皆様の BookShelf にも加えてくださいね。
13階段*高野和明 2009/09/15
K.Nの悲劇*t高野和明 2009/11/03