(副題)物語療法の世界。まさか精神科を受診して、昔話や物語を聞かされるなんて、誰も思ってもみなかっただろう。でも患者達の当惑はすぐ驚きに変わる。そこに繰り広げられるのは自分の物語なのだ。悩みを抱えた心の深層を 『赤ずきん』 『桃太郎』 『幸運なハンス』 『三びきのこぶた』 などで解き明かす、ちょっと不思議で本当は不思議じゃない12話の 『心の薬』 。
(大平健)1949年生まれ。精神科医。聖路加国際病院精神科部長。著書に 『やさしさの精神病理』 など。
この本は題名だけは知っていましたが、あまり興味もなくまた私が思っていた内容とは読んでみて全く違っていたことが分かりました。副題にある通り、『物語療法の世界』 。著者である精神科医の大平先生は、診療室に来た患者さんに、昔話を語って聞かせる、という実例を集めた話。どうして昔話?かと言いますと…。
大平先生の本を読んでみようと思ったのは、yom yom創刊号に 『大平先生のyom yom診療室』 という連載が始まったからです。大平先生が 『だめんずうぉ~か~』 の倉田真由美氏と対談形式で現代にはびこる?精神病について語り合うというコラム。なかなか面白かったので、著書も手にとってみました。
大平先生によれば、これまで診療室にやってきた患者さん達に様々なたとえ話をして納得してもらおうと努力してきたが、ふとこれは昔話のパターンに似ているぞと気が付いた。そこで様々な昔話、お話を探してみると、担当している患者の状況と全く一致するものが実に多い!ということでたとえ話をやめて、いきなり昔話をすることにしたそうです。
これだけ聞いていると随分大胆な医者(というか手抜きじゃないか?)と感じるかもしれませんが、なるほどそれはなかなか理に適っています。
評価:(なかなか面白かった)
例えば 『いっすんぼうし』 。
引きこもりの青年が両親に連れられやってきます、何とか今の生活を脱したい。両親もあれこれ手を尽くしているのですが、なかなか上手く行かない。
そこでいっすんぼうしです。
いっすんぼうしはおじいさんおばあさんに拾われて、大事に育てられました。それでもいっすんぼうしの身長は伸びず、近所の子ども達にはいじめられっぱなしでした。そこでいっすんぼうしは一念発起して、自分の力で未来を掴むために、『お椀の舟に箸の櫂』 を用意してもらい、川から都へ旅立つのです。
ここで先生がこの話を引用したのは、どんなに両親(おじいさんおばあさん)が愛情込めて育てても、子どもの未来を切り拓くには親の愛情だけでは限界がある、ということだそうです。本人(いっすんぼうし)が意を決して世に出なければ、道は拓けない。そして最後にいっすんぼうしは自らの力で身長とお姫様と名誉を手に入れる、というお話。…こういう風に読み進めます。
また、転職ばかり繰り返してしまう、次の就職先へ行ってもなんでこんなに転職ばかりしているのかと聞かれ、余計に萎縮してしまいまたすぐ辞めてしまう、という女性がやってきました。
先生は今度は 『ぐるんぱのようちえん』 を読ませます。
ぐるんぱは一人ぼっち。仕事もせずぶらぶらしていて、時々メソメソ泣きます。
そこで仲間のぞう達は集まってぐるんぱを働きに出すことにしました。
ぐるんぱは色々なところで働きますが、どこへ行っても失敗ばかり。雇い主には 『もう結構!』 と追い出されてしまいます。
しょんぼりしていたぐるんぱに、子沢山のお母さんが子守を頼みます。ぐるんぱは子ども達にピアノを弾いて歌をうたってあげました、ビスケットを分けてあげました。
すると、たくさんの寂しい思いをしている子ども達が集まってきて…。
ぐるんぱは最後に幼稚園を開きました。
というお話。昔話ではなく、こういう話も出てきます。
この話では、ぐるんぱは最初は仲間の中で暮らしていたのになぜか一人ぼっち。そこで働きに出ますが、どこでもイマイチ失敗ばかり。落ち込み落ち込み落ち込み…そして最後に自分の居場所を見つける、というお話です。
誰しも、1人ではないはずなのに、孤独感を感じながら生きている。そこで自分の居場所を探しながらあちこちを回り、時に遠回りしながらもついに自分の居場所を見つけるものなのだ。
ということだそうです。
絵本にここまで解説させるとは…。
でもこういう読み方もあるのだなぁ、となかなか興味深く読みました。誰にも、その人にピッタリあった物語があるそうです。私も見つけてみたいなぁ。