かつて祖母が暮らしていた古い日本家屋に、4人の娘達が同居することになった。染織家を目指す蓉子、美大で織物を学ぶ紀久と与希子、そしてアメリカから鍼灸の勉強に来たマーガレット。移りゆく季節を慈しみ、互いを尊重し合いながらも個性を育む娘達の成長と、不思議な能力を持つ人形りかさんとの交流を描いた長篇。
(梨木香歩)1959年生まれ。児童文学者のボーエンに師事。 『西の魔女が死んだ』 で日本児童文学者協会新人賞、『裏庭』 で児童文学ファンタジー大賞を受賞。主な著書に 『エンジェルエンジェルエンジェル』 『村田エフェンディ滞土録』 『春になったら苺を摘みに』 、絵本に 『ペンキや』 『マジョモリ』 『ワニ』 『蟹塚縁起』 など。
梨木香歩の代表作。文庫本を買ってから手に取るのがだいぶ遅くなりました。
まず、主人公が誰なのか特定するのが難しい物語。蓉子なのかと思いきや一人称はクルクルと、紀久や与希子にも変わって行く。そしてこの物語の一番の特長は、
【切れ目】 がないこと。
大抵の小説は1章、2章、と分かれて記述されてますが、この物語はところどころに2行ほどの空白行があるのみで、連綿とつながっています。つながっていながらも時間は流れ、場面は流れ、娘達の気持ちは変化していくのです。このつながっている、というのがこの物語の一番のテーマではないだろうか。
不思議な能力を持つ人形、りかさん。
りかさんはかつて蓉子と心を通わせ、話をすることができた、と蓉子は言う。しかし蓉子の祖母が亡くなってからは話さなくなったと言う蓉子。同居することになった紀久や与希子は、それは蓉子の少女性がもたらした、蓉子だけの思い込みだと認識し、読者も同様に認識する。
非現実的なものを理解できない、とハッキリ言い放つマーガレットと共に、4人はりかさんを家族として扱い共に生活する。理解しがたい、理解できないが、受け入れる。それは梨木氏のエッセイ
『春になったら苺を摘みに』 にある通りの生き方である。
からくりからくさの古い家に住む娘達の想いは様々でも、それは家族として共に暮らすうちに連綿と紡がれつながってゆく。蓉子たちには因縁とも言うべき深いつながりがあるのだが、その因縁とも別に、4人がこの家につながれたのはやはり、運命としか言いようがないのではないだろうか。
誰のまわりにもこうした他者とのつながりがあり、生きていく上で永遠に連綿と紡がれていく。
それが生きることなのだと、梨木氏は言いたいのだと感じました。
染色、織物、鍼灸、4人の娘達のライフワークは違えど、全てに共通するのは
【手仕事】 であるということ。その集大成である日本人形りかさんが象徴的に描かれながらも、毎日の生活は穏やかに過ぎてゆく。
蓉子の独り言に
【この生活から一歩もはみ出したくないように思う】 というのがある。まだ22歳の蓉子がそう思ってしまうほどの、落ち着いて満ち足りた、からくりからくさの家の暮らし。
心が落ち着かない時に入り込んで、すっと気持ちを落ち着かせてくれる。そんな物語です。これからも何度も読み返すことでしょう。
【私の一冊】 候補です。
評価:





(5つ満点)
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