二郎は東京中野に住む小学6年生。学校帰りに古本屋に寄り道して昔のマンガを立ち読みするのが日課だ。母は喫茶店を経営しているが、父は家にいてゴロゴロしているばかりの自称フリーライター。何かと学校へ怒鳴り込む父に辟易していた毎日だったが突如二郎は次々と事件に巻き込まれることになる。不良中学生との戦いや父の過去に関係する戦いの後、一家は沖縄 西表島に移住することになった。西表島でも父の周囲は変わらず騒がしいのだが、二郎の父や母に対する気持ちは徐々に変化していく。型破りな父に翻弄されていた家族が、その父を中心にまた1つになっていく様を少年の視点から描いた長編。1章は 『KADOKAWAミステリ』 連載に加筆、修正、2章は書き下ろし。
(奥田英朗)1959年岐阜県生まれ。プランナー、コピーライター、構成作家を経て作家に。『邪魔』 で大藪春彦賞、『空中ブランコ』 で第131回直木賞を受賞。主な著書に 『イン・ザ・プール』 『町長選挙』 『ガール』 など。
主人公は東京に暮らすごく平均的な小学6年生男子である二郎。この二郎の視点で物語が描かれているところが一番のポイントなのだと思う。1章は東京、中野区在住時代。学校帰りに古本屋で
『あしたのジョー』 を立ち読みするのが日課だった二郎だったが、ひょんなことからフダ付きの不良中学生カツに目をつけられる。まさに二郎にとっては生きるか死ぬかの瀬戸際、という人生初の苦難だが、破天荒な父はケンカなら正面切ってやれ、などと言う。普通の父親ならそんなこと言わないよな…と思いつつ、結局二郎は父の言う通り正面切ってケリをつけてくるのだ。
評価:





(5つ満点)
その間にも父の周囲には怪しげな男達が集まってくる、一体何が起こっているのか?父のことを 『同志』 と呼ぶ彼らは何者なのだろう?
東京で暮らしていた頃には理解できなかった破天荒な父の生き様だが、移住した沖縄・西表島でのサバイバル生活(電気も水道もない廃屋暮らし!)や心温かい島の人々との交わりによって、徐々に二郎に心境の変化が起こり、父を理解できるようになる展開がまた見事。それもごく普通の小学生として暮らしていた東京時代の描写があるからこそ、この西表島時代の物語が活きてくるのだと思う。
ともかく父はスゴイ。小4の妹、桃子のセリフ
『お父さんは元過激派で、今はアナーキスト。』
これもズバリすぎて抱腹絶倒してしまった。更に東京時代は普通の母親だと思っていた母までも、
『お母さんは昔、お茶の水のジャンヌ・ダルクって言われてたのよ。』
これも負けず劣らずスゴイ!
ブルジョワとかプロレタリーとか、何だか懐かしい言葉が噴出してくるのも面白いです。
ラストの二郎の一人語り 『家族は離れて暮らしていても気持ちが通じ合っていれば家族なのだ。』 小6にして人生を悟っている、素晴らしい!秋に映画化されるそうで、それも楽しみです。
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