生来笑ったことがない生真面目な浪人・伊右衛門。疱瘡を病み顔崩れてもなお凛として生きる女・お岩。鶴屋南北 『東海道四谷怪談』 と実録小説 『四谷雑談集』 を素材に、伊右衛門とお岩夫婦の物語を新しい視点から描いた京極夏彦版 『四谷怪談』 。怪談というよりむしろ純愛小説としての色合いが強い。
今年の課題作家、京極夏彦1冊目をようやく読了。映画化も話題の本作は、あの四谷怪談を新たな視点で描いた点で、異彩を放つ作品となっている。
従来悪人として描かれたお岩の夫 伊右衛門が本作では善人として描かれた点が特徴。妻となったお岩は武家の娘として気高く生きるよう躾けられ育ったため、何事にも真直ぐ過ぎ、その結果生じてしまう夫婦間の衝突とすれ違いが悲しく描かれています。一旦2人は別れを選択するものの、全てのさがを解決した伊右衛門は、最後お岩と共に安らかな死を迎えるのです。
傘張り、ではなく大工をして生計を立てていた浪人出身の伊右衛門が、一体どこで剣の腕や策略を講じる頭脳を磨いていたのか、などちょっと伊右衛門が完璧?な点が少し気になりますが、お岩を大切に思い守ろうとする理由が
『縁あって夫婦となったから』 というようなあたり、世の男性陣にも
ぜひ見習って頂きたいです。
評価:




(5つ満点)
四谷怪談の登場人物の設定はほとんどそのままに、京極風にアレンジを加えた設定も興味深く、ストーリー展開と併せて『鬼才』と言われる所以を感じた一冊です。
大極宮の最後の砦、京極夏彦に取りかかるのが遅くなった訳は彼のイメージが 『難しい漢字』 や 『印刷フォントを出版社に細かく指定』 などその日本語に対するこだわりが凄すぎる、というイメージだったから。でも実際読んでみた感想は、難しい漢字にもすぐに慣れ、むしろ氏の描く世界感に浸るためには必要な演出だと感じるということ。
人物の心理描写が丁寧で手抜きがなく、怪談の色合いよりも夫婦がお互いに思い合う気持ちを中心に描いた点で、純愛小説に位置づけてもいいかと思われる作品。昔中学生の頃よく読んだいわゆる 『純文学』 的な雰囲気を感じました。
京極夏彦、恐るべし。これで妖怪オタクなのだからますます…。次は妖怪・時代物以外のジャンルとして 『ルー・ガルー』 をぜひ読みたいのですが。
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