『父さんは、父さんをやめようと思う。』 そう父さんは宣言した朝。父さんが自殺を失敗したときも、母さんが家を出たときも、朝は普通にやってきた。そして、あの悲しい出来事の後でも…。高校生の佐和子を中心に、ちょっとおかしくて心温まる家族の日常を、食卓という場を中心として、その在り方を綴った物語。傷ついた人々が再生していく様子を描く、著者の温かいまなざしが詰まった物語。
必読。久々に泣きました。泣けるということに関係なく、必読本です。
瀬尾まいこの書く小説は 『再生小説』 である、とどこかの記事で読みました。傷ついた人々がそこから再生していく様を描く作品であると。
本作も多くの傷ついている人々が出てきます。父さん、母さん、佐和子の兄、そして佐和子。みんな辛い想いを抱えているのにどこかユーモラスなのは、ごまかしているのではなくそれでも毎日を生きていかねばならないことを知っているからだと思うのです。
瀬尾まいこは心理描写が押し付けがましくなく、非常に丁寧。『図書館の神様』 を読んだきりだが、それと比べると文章力もぐぐっと上がっていて、表現が素晴しい。『父さんが自殺を失敗したときも、母さんが家を出たときも、朝は普通にやってきた。』 この表現は秀逸すぎる。
佐和子の中学から高校時代を描いた本作は、大人から見ればささいな悩みにみえるものにも佐和子は一生懸命悩み、苦しみ、解決しようとする様子を描いており、その点はさすが現役中学教師の作者はよく捉えているなと思う。いつもだが兄弟愛が深いのもいいなぁ、と思う。
ラストは衝撃だが、それを佐和子は乗り越えようと思う。1人ではなく、周りの人々の支えを借りること、それが必要なことも知っている。やはり本作も再生小説なのだろう。でも作者はそれを押し付けない、それが当たり前のことで日々の暮らしなのであるということを、小説を通じて教えてくれる。生きていく上で大切なこと、必要なことをこの本は教えてくれる。
こんなにも、作者の想いを感じることができる小説はなかなかないような気がする。
瀬尾まいこの今後の著作にも期待大ですね。
評価:





(必読!)
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