親を亡くし、身体を壊して仕事も失った兄は弟の進学費用のために強盗殺人を犯す。残された弟に対する世間の風当たりの凄まじさ、全てを忘れて生き抜こうとする彼に、服役中の兄から毎月届く手紙。加害者の家族の苦難と再生を描いた東野圭吾版『罪と罰』。
東野圭吾の作品はどれも読みやすく、ついサラサラと読んでしまうが、今回の『手紙』は読み流す内容では決してない。
現代版 『罪と罰』 と言われるこの小説は、強盗殺人を犯した兄を持つ弟の生活を描いた作品。自分の進学のために強盗殺人を犯した兄を思う気持ちと、その兄のために【不当】に世間(職場、友人、地域社会)から差別を受け続ける事に対する強い反発とが、常に自分の中に存在する弟。『これで人生を掴めるかも知れない』と弟が思う瞬間に毎回障害となる兄の存在。その弟が差別と戦う意志を固めた時に投げかけられた会社の上司(社長)の言葉が物語のキーとなっている。
『君に与えられた差別は【不当】ではなく【当然】なのだよ。』
初め私もこの社長の言葉の意味がよく分かりませんでした。読後様々な書評を読んでもう一度ちょっと読み返してみて、やっと少し分かったような気がします。
この物語は決して犯罪の加害者の家族を擁護するものではなく、また同時に彼らに対する差別を凶弾するものでもないのです。服役中の兄との唯一の連絡手段 『手紙』 を通じて物語が展開する、趣向の凝らしてある秀作です。
でもやっぱり東野作品は 『サラサラと』 読めるのはどうしてだろう。この作品だけはもう少ししつこく心理描写などをしてくれてもよかったのに。細かい所は自分で考えなさい、ということでしょうか。犯罪の多発する現代社会では今後誰もが(加害者の家族に)遭遇する可能性のある内容です。
評価:




(5つ満点)
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