昭和38年のオリンピック前夜の東京。『トップ屋』村野善三は地下鉄爆弾事件に遭遇する。そこから始まる一連の脅迫事件を追う村野。トップ屋同士そして警察との攻防の中、真のジャーナリズムを追い続ける男を描く。桐野夏生の代表シリーズ【探偵村野ミロ】シリーズ3作目。ミロの義父 村善と母 早重、実父 後藤の出会いから別れを描く。
最近桐野作品ばかり読んだので帰省(新幹線)用文庫は違う物を買おうと思っていたところ…たまたま本棚の奥から出てきた昔の【東京人】の特集 『本は何でも知っている』 を読んでいたら、桐野夏生の批評が出てきました。そして本作を
『50年代生まれの桐野氏がオリンピック前夜の東京の様子をここまでよく取材して書いたなと感嘆した作品』 とあるではないですか。
以前より村野ミロの義父 村善があんまりあっさり死んでしまったためその人物像がよく分からなかったので本作を読まなくては、と思っていました。即、本屋へ走りました。
かつて
【トップ屋】 と言われ週刊誌は専属外注の記者集団が書いていた時代があったそうです。トップ屋に対し新聞記者を
【ブン屋】 と言います。どちらも今や死語かも。トップ屋村善は仕事に誇りとやりがいを持ちながらも、時代の流れがかつての仲間達に亀裂をもたらしつつあることに苦悩する、という内容。後にミロの母となる早重との出会いももちろん本作のポイントではあるのですが、むしろトップ屋としての村善の生活が詳細に描かれている点が魅力の本作です。
東京人の記事にあった通り綿密な取材が破綻のない作品作りに大きく影響しています。
それにしても昔はよかった。待ち合わせは時間を決める。遅れても携帯はない。ひたすら待つ。それが愛の形(?)。物語の最後で村善と早重は偶然本屋で再会します。引越してないのか、と問う村善に早重はこう答えます。
『貴方が電話して来てくれるかもしれないのに引っ越せないでしょう。』
携帯のない時代。戻りたいものです。
評価:





(5つ満点)
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