砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、2人の生活を眺める部落の人々。日々砂に埋もれる寸前の家に暮らし砂を掻くだけの毎日を送る女と部落の人々に疑問を抱きつつも、徐々に変化していく男の心情が恐ろしい、SFともとれる小説。世界20数ヶ国語に翻訳された名作。
怖い話。安部公房はどれも怖いけど。
母が安部公房が好きなので、高校生の時初めて 『にんげんそっくり』 を読まされましたが、私には分からなかった。それ以来安部公房からは遠ざかっていました。夏に遊びに来てくれた友人と本の話になり、安部公房の話が出ると 『結構面白いよ、「砂の女」とか』 ということで買ってみたわけです。しかし本を開くのがすっかり遅くなりました。
今回も時代設定は昭和30年代だというのに、内容はSFそのもの。空恐ろしくなる内容です。男が主人公ですが、題名は 『砂の女』 。ここもポイントのような気がします。
私たちも日々の生活を続けるうちに、気が付かないうちにこの砂の女のように、毎日の繰り返しを仕方のないことだと感じるようになってはいないでしょうか。好奇心も失せ、向上心も失せ、ただただ与えられた仕事をこなすことで一日を終えることに、なってはいないでしょうか。
初めのうち男は何度も脱走計画を練ります、失敗を繰り返すうちに、心境の変化が生まれてきます。それが女と寝食を共にするうちに生まれてきた連帯感なのか、女の虚脱感がうつってしまったのか、判然とはしないのですが、兎にも角にも恐ろしい小説です。
心臓の弱い方は読まないほうが懸命です。なんてね。
自分は穴の中に閉じ込められている砂の女なのか、それとも穴の外から女と男を見張っている村の人々なのか、どちらなのか。と考えてしまいました。本音はどちらも、イヤです。
評価:




(5つ満点)
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