お兄ちゃんが人を刺すなんて。 『英雄』 に取り憑かれた兄を救うため、友理子は物語の世界へと旅立った。異界で旅をする友理子に従う従者の僧侶と、戦士である 『狼』 。旅の行く先には何があるのか、友理子は兄の魂を救えるのか。ついに 『英雄』 と対峙した時、友理子はおぞましい真実を知る。英雄の書とは一体何なのか。宮部みゆきのファンタジー、 毎日新聞連載に加筆修正。
(宮部みゆき)1960年東京都生まれ。 『我らが隣人の犯罪』 でオール讀物推理小説新人賞、『蒲生邸事件』 で日本SF大賞、 『理由』 で直木賞、 『模倣犯』 で毎日出版文化賞特別賞、司馬遼太郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞、『名もなき毒』 で吉川英治文学賞を受賞。
宮部の新刊。ということで内容も確かめずにまず図書館予約。動きが早かったため今回も栞が使われていない→誰も読んでいない、新着ホヤホヤの本が手元に来たのは嬉しいのですが。読み始めてからシマッタ、と思いました。ファンタジーです。私は宮部のファンタジーはどうも苦手なのです。しかしせっかくの上下巻なので読みました。
久々の少女主人公、これはクロスファイヤ以来では?異世界へ旅立つ点はブレイブ・ストーリー、ICO霧の城と同じですが、今回のキーは 『物語』 。物語、本として人から人へ語られるものとしての物語、ストーリーに含まれる正義と悪について。それは表裏一体のものだというのだ。
主人公は小学生の友理子、異世界ではお決まり通りカタカナ名の 『ユーリ』 となるのだが、ユーリは現実社会で人を刺すという 『罪』 を負った兄の魂を救いだすために旅に出る。旅の途中でユーリはこの世界の成り立ちや、なぜ兄が罪を犯すに至ったかを様々な人々との出会いから徐々に知っていくのだが…。
クライム・ノベルとして本作を見た場合、このあり方はどうだろう。
兄が罪を犯したのは 『英雄の書』 と呼ばれる物語にとり付かれたため。 『英雄の書』 は正義と悪の二面を持つ物語であり、兄はその物語に付け込まれたのだと言う。
それならば、兄の犯した罪は全て英雄の書に原因があり、兄は本来は無罪なのだろうか?イヤ付け込まれた以上兄にも罪があるのだろうか? 『正義をなすことは一方では罪である』 というテーマとも読み取れる本作は、私のような大人(一応)読めば問題ないがYAの世代に訴えかける内容としてはやや刺激的過ぎやしないか?そんなことは懸念する必要もないのだろうか?やはり、宮部がファンタジーという形式を通じて何を最も訴えたいと願っているのか、イマイチ私には掴めない。
ただ物事には必ず表裏があり、本当に正しいこと、本当に間違ったことはない、ということを言いたいのかもしれない。それでもなお、ユーリの兄 大樹が現実社会で起こした罪は間違ったものである。その誤りに肩を持つということか?と読了直後は思っていました。
が、 『加害者の家族』 という立場のユーリのことを思えば、これまでの宮部のファンタジーとは異なりラストのエピローグでユーリの未来が明るく開けていることに、非常に安堵を覚えました。ブレイブ・ストーリーのラストがどうしてもイヤだったのでコレは相当ホッとしてしまいました。いずれにせよ立場が非常に微妙な設定のストーリーで、エンタメとしてはアリでも新聞連載としては、どうなのでしょう。
評価:(でもラストは泣いた…
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