ピアスの拡張にハマっていたギャル系コンパニオンのルイは『スプリットタン』という2つに分かれた舌を持つ男アマと出会う。同棲を始める2人。その間もルイは刺青など『身体改造』を繰り返す。やがてアマが行方不明となり死体で発見され…。第27回すばる文学賞受賞作。
文芸春秋3月号掲載の芥川賞受賞作です。金原ひとみは本作がデビュー作の弱冠20歳の女性。一言で言うと
『上手い』 。20歳の女の子(語弊がありますがあえて)がこのように破綻のない文章を綴るとは。
読み始めた時は 『またこの手の内容か』 と思いました(とある選考員も同様に書いてます)。私の苦手な分野です。しかし読んでいくうちに文章に引き込まれていく自分に気付きました。読むのを止めてなぜ惹かれるのかを考えてみると。
女性作家にありがちな、自分の価値観を押し付けたり必要以上に主人公の内面を押し付けようとする記述がないことに気付きました。文章が上手い。その一言です。
先入観なしに読もうと選考員の書評は読み飛ばし、金原ひとみ本人の受賞後の言葉だけを読んでから読んだのですがそこには 『適当に書いてたら芥川賞も取ってしまったし』 とありました。この言葉が真実ならば世の中の作家志望の方々(私含む、笑)には到底及ばない【何か】が彼女にはあるのでしょう。これを【才能】と呼ぶならば、それは一体どうやって磨かれるものなのでしょう。
評価:




(5つ満点)
ある選考員が身体改造という行為を通じて描かれる『純愛』がテーマ、と書いていましたがそれは私は違うと思います。この作品のテーマは言いようのない孤独感を抱える現代の若者の生き様であると思うのです。
物語の処々で主人公ルイは 『溶けて1つになりたい』 という表現をしばしば用いています。淋しくて仕方がないから、一体感を感じるためにアマと同じ身体改造をするものの、そのアマが突然いなくなってしまう。一体となるべき物を失くしてしまった喪失感。しかしその喪失感は失くす以前からあるのです。いつか失くしてしまうのではないか、という焦燥感。ルイは常にそれと闘っているのです。
アマを失くした瞬間一体感の対象がシバさんに移り、次は彼を失うのではないかという焦燥感。その繰返しである、というのが本作品のテーマでは。【蛇】とは自分で体温調整ができず常に他者に価値観、愛情を見出そうと渇望する現代の若者を象徴的に表現したものではないかと思います。
かく言う私もそうかもしれない。いつも押し付けがましい愛情を夫や子ども達に強要して嫌がられております(笑)。金原ひとみ、『この手』 だけではなくいわゆる 『純文学』 的な作品にもチャレンジして欲しいと思います。次回作にも期待大です。
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