さとこはイラストレーターの仕事を細々としながらもうじき30歳を迎える。誕生日を間近に控えた大晦日の朝、結婚を考えていたはずの彼が家を出た。大人になってから再会した実母との距離感もうまくつかめない。どうすればうまく生きられるのか。書き下ろし、『小説現代』掲載に加筆修正して単行本化。
(窪美澄)1965年東京都生まれ。カリタス女子中学高等学校卒。フリー編集ライター。『ミクマリ』 で女による女のためのR-18文学賞大賞、『ふがいない僕は空を見た』 で山本周五郎賞受賞。著書に 『晴天の迷いクジラ』 。
(収録作品)クラウドクラスターを愛する方法/キャッチアンドリリース
クラウドクラスター、というのは積乱雲のことだそうです。積乱雲のようにかつて家を出た母、大人になってから再会しても自分にとって母はやはり積乱雲のように激しく付き合いにくい存在であった。それでも12歳の時に家を出た母と、母の再婚相手との3人で、まるで家族のような付き合いを続けるさとこ。
さとこには3年同棲した向井くんという恋人がいるが、彼の家に住んでいるというのにケンカして出て行ってしまったのは向井くん。この彼との関係もまた一歩踏み出せない。
一歩踏み出せないのは、さとこが家庭というものに常に不安定感、不安を感じているから。子どもの頃にそれが確立していないと、大人になってこうも苦しむものか。『キャッチアンドリリース』 も同じく片親同士の小学生の交流を描いた作品ですが、親が離婚した子どもってこういう想いでいるんだろうなぁと切実に感じてしまい、切ないです。
家族。人間関係の根本である、家庭。親という存在の責任は、重いです。それでもなお子ども達は自分の力で生きていこうとする、そのたくましさも同時に感じました。
評価:




(5つ満点)
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