『私』の超人的な美貌を持つ妹ユリコ。『私』の名門女子高での同級生和恵。2人は街角に立つ最下層の中年娼婦として同様に殺害という孤独で衝撃的な死を迎えた。2人を取巻く状況を『私』が回顧する中で浮かび上がるそれぞれの生き様。『東電OL殺人事件』を題材に週刊文春連載を単行本化。
2003年最後に読んだ本が2003年ベスト本でした。桐野夏生は 『柔らかな頬』 が秀逸と思っていますがこれに勝るとも劣らない作品です。また桐野夏生の代表作が生まれました。
読む前にダ・ヴィンチのインタビューで桐野氏が
『グロテスク=化け物を書きたかった』 と発言してましたが、まさに本作は女という生き物の中に巣食う
【化け物】を描いた作品です。女性に対して理想が高い男性はご遠慮頂く方がよろしいかと思います(笑)。
毎回思うのですが桐野氏の取材力には感嘆します。行きつけのオンライン書店bk1の書評にもQ女子高(のモデルと思われる)の出身者と言う方の書評が載っていましたが、本当によく取材していると感心していました。本作品のポイントの1つはこのQ女子高における、我々庶民(笑)が絶対に超えることのできない【階級社会】という壁です。
一言で言えば恐るべしQ女子高。お受験の愚かさをつくづく感じます。愚かなのは端から争うべき土台が違うにも関わらずその争いに参加ししかも勝たなくてはならない、と思いつめてしまう少女達。和恵もミツルもそして傍観者を装う 『私』 でさえも、実は同じように土俵で戦っていたのでしょう。愚かな生き方です。その戦いが無意味だと知っていたユリコだけが、実は一番自分を知っていたのかもしれません。
評価:





(5つ満点)
もう1つのポイントは一流企業の研究職に就きながらも娼婦をやらなくては精神の均衡を保てない和恵。そんな和恵を軽蔑しながらも和恵とユリコの死後その世界へ身を投じたいと思うようになる 『私』 。大人になってからの生き方でもやはりユリコだけが自分を知り自分の価値観で生きていたにも関わらず、最後まで自分自身の【価値観】を見出せなかった哀れな和恵。
物語はそんな和恵とユリコを卑下する 『私』 の語り口で進んで行きますが、物語が進行するに連れ読者は『私』自身の矛盾や浅はかさや狡猾さを知るのです。
この【薄寒さ】がやはり桐野夏生。上手い。
特に【和恵がRLの刺繍を靴下にした件】と【『私』が高校卒業時に作ったスクールリングを大事にはめている件】はすごかった。こんな風に書ける作家は桐野夏生だけかも。
女の怖さ満載の作品ですので読む時はご注意下さい。この本で私が感じたのは
1) 生きるための価値観は自分で定める(他人の物差しで計ってはいけない)
2) 女は愛と性とを分けては考えにくい
の2点です。なぜって、私がそうだから。
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