春一(はるいち)は昔飛び出した故郷に帰ってきた。父が亡くなったのだ。様々なしがらみから逃れるために飛び出したはずなのに、今生きている場所でもしがらみから逃れられない春一。自分の居場所はどこにあるのか。再会したかつての恋人とその娘 一花(いっか)との交流を通じ、春一は自分自身と居場所を探っていく。yomyom4号掲載。
(山本文緒)1962年横浜市生まれ。神奈川大学卒業。OL生活を経て 『プレミアム・プールの日々』でコバルト・ノベル大賞の佳作を受賞し少女小説家としてデビュー。『恋愛中毒』 で吉川英治文学新人賞、『プラナリア』で直木賞を受賞。主な著書に 『ブルーもしくはブルー』 『ファースト・プライオリティ』 『パイナップルの彼方』 など。
人物設定がいいですね。ソリチュード:孤独。孤独を抱えながら生きている主人公、春一の置かれている立場と心情が説明がましくなくストーリーの流れに沿ってだんだんと読者に伝わってくる、展開が見事です。
まあー春一は万事いい加減な男で、それがいけないことは自分でも自覚しているのですが、故郷に戻り久しぶりに会った友人の武藤に
『オマエは優柔不断じゃなくて融通が利かなすぎる。義理堅いのではなく傲慢なんだ』
と言われた時の春一の狼狽ぶりがまたいいですね。あまりにもそれが的を得た発言なものだから。
周囲の女達の要望に全て応えようとするのは単にオマエの傲慢だ、と言い切られ、春一は自分の生き方そのものを否定された気持ちになります。そしてそこから、その気持ちから這い出すにはどうしたらいいか、をようやく自問自答し始める。
やはり読者であるこちら側に 『再婚生活』 後の復帰第一弾、という見方が強く出てしまっているのは否めません。でも男性が主人公という点でもちょっと新境地かなと感じました。ソリチュード、孤独を抱えているのは自分だけではなく誰もがそうだということ。それはまだ小学生である一花も同じだと、春一も読者も気付く。というラストはいいですね。
評価:(5つ満点)