■ バスジャック(評価:4)
表題作にもなっていることから、かなりインパクトを受ける題名。設定としては前作 『となり町戦争』 に一番近い。
バスジャックがエンターテイメントと化した近未来で度々起こるバスジャック事件。バスジャック犯にも乗客、乗務員にも一定のルールを作ることでバスジャックの記録を更新して行く、という話。バカげた設定の話を最もらしく法整備された事柄として説明するくだりは本当に笑える。
主人公の乗った高速バスでバスジャック発生。乗客は色めき立つ、エンタメだから。しかし主人公には時間までにどうしても遂行しなくてはならない大切な用事があった。そこでバスジャック犯を排除することに成功する。そして…。途中から展開が読めてしまうが、設定としては面白い。
■ 雨降る夜に(評価:4)
これも短く5ページの作品。主人公もなぜか分からないが物語が進行する、という作品が多いが、それでも良いと思わせるのが三崎氏の力量。
■ 動物園(評価:5)
これも近未来の話。SFとして最もフィクション性が高いが、他作同様現実にはあり得ない話を理論で説明している箇所など、なるほどと思わせる部分もあり興味深い。もしかすると現実とは、この話のように本当に目に見えるモノが本物とは限らない場合の方が多いのかもしれない。と思わせる作品。
■ 送りの夏(評価:5)
今回一番の長編、そして最も印象的だった作品。
主人公を小学生の女の子としていることで大人にも理解不能な事象を、読者に理解させることに成功している。
決して失いたくないかけがえのないモノを突然失った人々はどうしたらよいのか。徐々に時間をかけてその事実を受け止めてゆくしかない。そのことを教えてくれる作品。
本当は 『送りの夏』 を表題作にして欲しかったけど、それだと平凡すぎてインパクトが弱いので 『バスジャック』 にしたのだと思う。それは正解と思う。
三崎亜記、今後も最も注目の若手作家です。