文学者らが作った理想郷 『唯腕村』 。村で育った若者が次々と村を捨て出て行く中、ただ一人村に残った後継者である東一は、入村希望者の美少女マヤと出会いこの村を自分の欲望のためだけに使うことを決意する。『週刊文春』 ほか連載を単行本化。
(桐野夏生)1951年金沢市生まれ。成蹊大学卒業。『顔に降りかかる雨』 で江戸川乱歩賞、『OUT』 で日本推理作家協会賞、『柔らかな頬』 で直木賞、『グロテスク』 で泉鏡花文学賞、『残虐記』 で柴田錬三郎賞、『魂萌え!』 で婦人公論文芸賞、『東京島』 で谷崎潤一郎賞、『女神記』 で紫式部文学賞、『ナニカアル』 で島清恋愛文学賞を受賞。 また 『OUT』 で日本人初のエドガー賞候補となる。
待ちに待った(いつも)桐野夏生新作長編。毎日.jpのインタビュー記事によれば、
タイトルの 『ポリティコン』 はアリストテレスの言葉 『ゾーン・ポリティコン(政治的動物)』 から来ている。『政治的動物とは何か。平たく言うと「人間はどうやって共同で生活するの?」ということだと思いました。耳慣れないけどタイトルとして響きもいい。早い段階で決まっていました』 と桐野さん。
とります。政治的動物、つまり生きるために政治的活動が必要、ということ。政治とは、人心掌握?支配?
今回も桐野作品バリバリの、自分の欲望に実に忠実な登場人物ばかり出てきます。理想郷の精神を掲げながら限界集落となりつつある唯腕村の実態、後継者という理由だけでそこに執着し続ける東一、そこへ迷い込む北田、マヤ、スオンら帰る家のない人々。唯腕村の村民らは東一始め本当に自分の私利私欲のためだけに行動していて、呆れるを通り越してもう潔い(笑)。でもそんな人達のことを、『愛おしい』 という桐野氏。
桐野作品はこの、愚かだが愛おしい人間達、がテーマだと思う。自分の欲を満たすことしか考えていない東一、その東一を利用しようとするマヤ、東一に反発しながらも彼にすがって生きて行くしかない唯腕村の老人たち。決して同情できる人も爽やかな人も一人もいないのに、なぜか惹き付けられてしまうのは、やはり全編に流れる桐野氏の 『人間に対する愛』 なんだろうな、と思う。
人間は愚かだから、愛おしいと言う桐野氏。その桐野氏の生き方こそが、ハードボイルドではないでしょうか。いつでも新作が楽しみな作家の一人です。
評価:(5つ満点)