駅のホームで出会った彼女は、どうしたわけか美男子でもない自分に毎朝会うのを楽しみにしている。その気持ちをよく理解できないまま恋人として付き合い始めた2人。彼女の家族に紹介されたことをきっかけに、その家族の抱える受けとめきれない現実、止まってしまった時間に直面する。衝撃を受けつつも彼女とその家族のために自分のできることは何かを考えることで、彼の存在が家族への癒しとなっていく。
家族、恋人、見知らぬ隣人、人と人の間の温かな繋がりを描いた3編を収録。『小説推理』掲載。
〈瀬尾まいこ〉1974年大阪府生まれ。大谷女子大学国文科卒業。『卵の緒』 で坊っちゃん文学賞大賞、『幸福な食卓』 で吉川英治文学新人賞を受賞。
(収録作品)優しい音楽/タイムラグ/がらくた効果
今回は瀬尾まいこ、アタリです。評価は厳密に言うと
■ 優しい音楽:5 ■ タイムラグ:4 ■ がらくた効果:4
というところですが、全体として評価はおまけで5にしておきます。
瀬尾まいこの短編の上手さも良くわかる、いい作品集です。今回も設定が利いています。私は表題作 『優しい音楽』 が一番気に入りました。毎回傷ついた人々が主人公の小説でしたが、今回は傷ついた人々を目の当たりにした青年が主人公。彼が、傷ついた人々のために自分は何ができるか、と考え行動に出るところが素晴らしい。美しいお話です。
評価:





(5つ満点)
2編目の 『タイムラグ』 は不倫相手が奥さんと旅行に行くため小学生の娘を一日預かる羽目になった27歳の主人公の話。こんな設定も瀬尾まいこが書くのかぁ、と新鮮でした。奇抜なようでよくできた話。最初は子どもを押し付けてきた不倫相手のことを怒っているのですが、その娘と過ごすうちに何となくそれも許せてしまう、ヘンな温かさが広がるお話です。でも惜しむらくは題がイマイチ。私なら…難しいけど 『十分間』 とかにするかな。
3編目もなかなか奇抜な設定。何でも拾ってきてしまう同棲中の彼女、ついにホームレスのおじさんを拾ってきてしまった。しかしそのホームレスのおかげ?でマンネリだった2人の関係を見つめなおすいいきっかけになる、という話ですが、これも私なら題を 『拾い物』 とかするかな。しかし、やっぱり私の題の付け方、イマイチだな(笑)。
瀬尾まいこの書く小説の登場人物はみな、人への思いやりにあふれているところが素晴らしいと思います。自己中心的な人は多いけれども、心の底から自己中心な人はいないのかもしれない、と思わせてくれる小説たちです。
久々に満足感のある短編集でした、必読です。
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