かつて離れ離れになってしまっていた家族を結びつけた固い絆。その絆に結ばれていたはずの林太郎、アユミ夫婦は林太郎の不倫をきっかけにばらばらの暮らしを選ぶこととなった。林太郎は、アユミは、そして高校生の長男 森介はどこへ向かうのか。再び家族が一つになることは可能なのか。個とは、人のつながりとは、家族とは。生きることの意味を家族がそれぞれ追い求める様子を、風力発電、エコドルプ、農業への回帰など現代人の抱える悩みを絡めて描く。『すばらしい新世界』 続編、『読売新聞』連載を単行本化。
(池澤夏樹)1945年北海道帯広市生まれ。都立富士高校卒業、埼玉大学中退。詩人、翻訳家、小説家。翻訳はギリシア現代詩からアメリカ現代小説など幅広く手がけている。 『スティル・ライフ』 で中央公論新人賞、第98回芥川賞、『マシアス・ギリの失脚』 で谷崎潤一郎賞、 『花を運ぶ妹』 で毎日出版文化賞を受賞。主な著書に 『キップをなくして』 『静かな大地』 『きみのためのバラ』 など。
このタイトルと、物語の冒頭に出てきた
『僕』 なる物語の著者である人物がラストまで出てこない、という2つの事実がイマイチよく理解できないが…まぁそれはいいでしょう。
林太郎とアユミという40代前半の夫婦の物語。40代前半というのは微妙な年代なのだろう、人生も終盤への準備に差し掛かり、そのための基盤も築き上げほぼ固まっているはずなのに、まだ何か変化を求めてしまう。
夫 林太郎の恋愛、林太郎自身は後悔はしていない。避けようのない出来事だったというが、果たして彼が50代、60代で同じ状況にあったら同じ道を選ぶだろうか?40代前半は人生で最後の分岐点、悩める年頃なのかもしれない。
アユミがどんどん成長していくのに対し林太郎はあまりそう感じられないと読了直後は思ったが、結果林太郎は退職という大きな決断をしたのだから大きく成長したということなのだろうか?
アユミが過ごしたコミュニティの有様も興味深い、アユミ自身が物語のラストで辿り着く藤ノ庄の地でもコミュニティを強く意識する。林太郎は会社、森介は全寮制の高校というコミュニティでそれぞれ過ごして来たのはアユミと全く同じだ、人はやはり何らかのコミュニティの中でしか生きられないということなのか?オランダ・アムステルダムの友人佐和子がまた印象的、アムステルダムの風景が懐かしい。
こう考えると、人生は誰にとってもやはり
【旅】なんだろうなぁ。そして男の考え方と女の考え方は、やはりこうも違うんだな、同じ
【人】という枠でくくるにはあまりにもムリがあるんじゃなかろうか?(笑)どんなに考えても成長しようと願っても、アユミは直感とも言える感覚で、結局林太郎と日本へ戻ることを決める。それでも人は悩む、最後はインスピレーションで決めるのに。
池澤夏樹は素晴らしい、どうしてこうも感性が瑞々しいのか?職業作家である。
評価:




(5つ満点)
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