美浜は31歳独身。同じく独身の姉と初老の両親と共に生まれ育った千葉の海浜地帯の高層マンションに暮らしている。すぐそこにはディズニーランドが見える。発展していく街並みとそこから浮いていることを自覚しながらも、どこへも行けない一家。かつて地元を離れていた美浜が両親の住む地へ戻ったのは、過去に若くして自殺した恋人 英二を忘れるためだった。ある日美浜は思いがけなく英二の兄である恵一と再会する。自分の家族、恵一の家族、マンションの隣人、勤務先の大家の暮らしを通じて美浜が考えるのは、家族の在るべき姿だろうか。
第12回 『すばる文学賞』 最終候補作(当回受賞作なし)となった原稿に加筆修正をほどこした新潮文庫オリジナル、桐野氏幻のデビュー作。
(桐野夏生)1951年金沢市生まれ。『顔に降りかかる雨』 で江戸川乱歩賞、『OUT』 で日本推理作家協会賞、『柔らかな頬』 で直木賞、『グロテスク』 で泉鏡花文学賞、『残虐記』 で柴田錬三郎賞を受賞。 また 『OUT』 で日本人初のエドガー賞候補となる。
確かに作品としてはまとまっていないし、結局主人公美浜の想いはどこへ向かうのかも分かりにくい終わり方だが、これがデビュー前の新人の作品ならばやはり桐野氏はスゴイと思う。
桐野氏の小説に出てくる人物は皆他人との距離感をコントロールできている人が多い中、美浜はそれがほとんどできていない。それが20歳の頃、恋人であった英二を自殺で亡くしたことに端を発しているのならば、美浜はその呪縛から永遠に逃れられないのだろうか、辛い内容である。
この作品にはいわゆる 『いい人』 が出てこない、それもまた辛い。美浜は自分達家族を
『家族の終焉の姿』 だと自嘲している、果たしてそうなのだろうか。しかし家族の在り様とは既存概念に捉われるものではなく、家族の数だけその姿があるのではないだろうか。
評価:



(5つ満点)
自分でまだ何も決められない美浜。早く大人になって自分の意志で歩んで欲しいと思う。 『冒険の国』 これがディズニーランドを指すと単純に言うことはできないが、マンション中から美貌の若奥さんとして羨望を浴び、ディズニーーランドで着ぐるみ(ではなくキャラクターと言うよう美浜も作中で言われている…)のアルバイトをしている隣人にも、深い心の闇があることを見たことで美浜が成長して行く、その辺をもう少し描いて欲しかったかな。
本作は本来ならば出版されることはなかったはずの小説であり、桐野氏の一ファンとしてこうして読むことができたというだけで、まず喜ぶべきだと思います。
『加筆修正前の原稿が読みたい』 それは読者ならば誰もが思うことですが、現在第一線で活躍している桐野氏にとっては、そのまま自分の作品として出版することはためらわれる作品に、元の作品を崩さずにギリギリの範疇で加筆修正をしたのだと、私は信じています。
桐野氏自身もあとがきで 『本作を書いた時の原点を忘れないようにしたい』 とあります。桐野氏の原点がここにある。それだけで一ファンとしては満足です。
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