昭和30年8月6日、ヒロシマに灼熱の閃光が放たれてから十年。人々は日々生きていた。ヒロシマを舞台に1人の女性が恋をするが、彼女は生への罪悪感に苛まれながら生きていた。戦争とは、原爆とは何だったのか?終わらない被爆者達の生活を描く。手塚治虫文化賞新生賞、文化庁メディア芸術祭大賞ダブル受賞。
(夕凪の街)昭和30年広島市。原爆投下から10年。母と2人生き延びた皆実の物語。
(桜の国1)昭和62年東京都中野区。疎開していて被爆を免れた皆実の実弟である旭の娘、七波の物語。団地に暮らす七波と弟の凪生、父親の旭と祖母の暮らしを描く。
(桜の国2)平成16年東京都田無市。大人になった七波と凪生。定年になった旭の不可解な行動を見守っているうちに広島へたどり着く七波。自身のルーツを再確認する。
(こうの史代)1968年広島市生まれ。主な著書に 『街角花だより』 『ぴっぴら帳』 など。
8月は原爆の日そして終戦記念日があります。戦争とは原爆とは一体何だったのか。普通に、ごく平凡に平和に広島に暮らしていただけなのに、被爆をし、そしてその傷を一生背負いつつも必死に行きぬいた人々。これはその人々の抱える一生終わらない戦争と、未来へ伝えるべき想いを描いた作品です。映画化も話題ですね。
素朴なタッチのマンガです。それがこの本の言いたいことをより一層際立たせているような気がします。誰もが平凡に平和を求めていた戦時下の広島に、原爆が投下された。家族のうち二度と家へ戻らなかった父と妹、身体全体が腫れ上がってしまった母。共に生きながらえたと思った姉が、原爆投下後2ヶ月での死んだ。常に死の恐怖と戦いつつ、そして全て見聞きしたことを忘れてしまいたいと願いつつ、忘れられず生きてきた皆実と、
周囲の人々との触れ合いを描いたのが第一部の 『夕凪の街』 。
評価:(読みたい方はご連絡を)
第二部は皆実の実弟で水戸の叔母の家に疎開後、そのまま養子となった旭の娘、七波が主人公。
被爆者であった母の38歳での死、同じ被爆者でありながら80歳で逝った祖母。そして被爆2世という理由で恋人の両親から交際を反対されている弟、凪生。七波と凪生の小学生時代を描いた 『桜の国1』 と、母も祖母も他界した後の、定年を迎えた旭と大人になった子ども達親子3人の暮らしを描いた 『桜の国2』 。いずれが欠けてもこの物語全体は成り立ちません。
桜の国では平成の現代から戦後の時代への切り替えが上手いな、と思いました。主人公は七波なのですが、七波の目を通じて父である旭の心情が上手に綴られています。
家族のうちたった1人原爆を免れた旭。被爆者である妻と結婚したいと切り出した時の母(七波の祖母)の言葉。姉を、妻を、早く亡くした悲しみと、逆に最後まで生き残ってしまったという罪悪感に似た気持ちを抱えていたであろう母。全ての人の想いを受け止めつつ、父は広島を歩いていたのでしょう。
そしてその父の姿を目に焼き付けた七波。
戦争は今も終わっておらず、決して過去のこととして忘れ去ってはならないものだという大切なことを教えてくれる、一冊です。