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夜市*恒川光太郎

img20060619.jpg何でも売っている不思議な市場 『夜市』 。そこは現実の世界とは隔離された世界であった。現実に戻るには必ず取引をしなくてはならない掟がある。幼い頃夜市に迷い込んだ祐司は、まだ5歳の弟を取引の対象として、その引換に 『野球選手の才能』 を手に入れた。野球部のエースとして成長した祐司だったが常に弟を売った罪悪感に苛まれていた。甲子園出場を果たした後高校を中退した祐司は、ついに夜市へ出向きかつて自分が売り飛ばした弟を買い戻すことを決意する。
(恒川光太郎)1973年東京都生まれ。本作で第12回日本ホラー小説大賞を受賞しデビュー。
(収録作品)夜市/風の古道


恒川光太郎は本作がデビュー作。素晴らしい作家です。

民俗学的色合いがどちらの作品も非常に濃く、恒川氏は民俗学専攻か非常に造詣が深いと思われます。どちらの作品もいい出来ですが、やはり 『夜市』 の設定とストーリー展開の見事さがホラー大賞受賞となったのだと思います。

■ 夜市
そぎ落とした文章で、ムダがない。
それが主人公 祐司の心情を一層孤独に際立たせている。

祐司の同級生、いずみが祐司に夜市に連れて来られた理由を知り愕然とするシーンも見事であるし、『踏み入れたら最後、何かの取引をしなくては決して抜け出せない』 という夜市の設定も見事。

評価:(装丁も素晴らしい)

今、世の中には様々な複雑な事情を抱えた人が多く生活している。引きこもり、ホームレスなど、その中には自ら進んでその生活を選んだ人もいれば記憶を失ったり、更に複雑な事情を抱えた人もいると思う。そうした人々に焦点を当てて書いた作品として本作を捉えることもできる、夜市は現代を映す鏡のような存在だとも言えるだろう。

でもこの作品は、昔もそしてこれからも変わらない夜市の存在とその意義を、十分に堪能したい作品である。ホラー大賞の選評が同時に収録されており、一様に展開の上手さを褒めているが、それよりも私は 『夜市』 の存在そのものの考え方を評価したい。

■ 風の古道
こちらも同じく、古道の設定がきちんとしているところが良い。
古道に属するモノは決して外の世界に持ち出すことができない、という大原則。そして魑魅魍魎だけが行き交う古道に、なぜか自由に出入りすることができる外の世界の住民である人間がいる。

彼らの多くは人格異常者で、自分の殺人の記録を名誉として持ち歩いているような危険な男が出てくる。

現代にはびこる、心に闇の部分を多く持つ人間を、こうした古道に出入りする人間として描いたことで理解しがたい人の心の闇に迫ろうとしたのではないだろうか。

主人公はふとしたことから古道へまぎれこんでしまい、そこで共に古道へ入った友人を死なせてしまい、死人を生き返らせることができるという寺を訪ねて古道を旅して行く。その旅路を手伝ってくれるのは古道で生まれ育ったという青年。彼自身の存在が古道の中にも人情があることを教えてくれる。

食うか食われるかの世界にも人情はあるのだ。
そしてどんなに願っても叶えられないこともあるのだ。
だからこそ、古道の外で人は一生懸命生きるのだろう。

恒川光太郎。必読です、そして次回作にも大いに期待です。

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