今、世の中には様々な複雑な事情を抱えた人が多く生活している。引きこもり、ホームレスなど、その中には自ら進んでその生活を選んだ人もいれば記憶を失ったり、更に複雑な事情を抱えた人もいると思う。そうした人々に焦点を当てて書いた作品として本作を捉えることもできる、夜市は現代を映す鏡のような存在だとも言えるだろう。
でもこの作品は、昔もそしてこれからも変わらない夜市の存在とその意義を、十分に堪能したい作品である。ホラー大賞の選評が同時に収録されており、一様に展開の上手さを褒めているが、それよりも私は 『夜市』 の存在そのものの考え方を評価したい。
■ 風の古道
こちらも同じく、古道の設定がきちんとしているところが良い。
古道に属するモノは決して外の世界に持ち出すことができない、という大原則。そして魑魅魍魎だけが行き交う古道に、なぜか自由に出入りすることができる外の世界の住民である人間がいる。
彼らの多くは人格異常者で、自分の殺人の記録を名誉として持ち歩いているような危険な男が出てくる。
現代にはびこる、心に闇の部分を多く持つ人間を、こうした古道に出入りする人間として描いたことで理解しがたい人の心の闇に迫ろうとしたのではないだろうか。
主人公はふとしたことから古道へまぎれこんでしまい、そこで共に古道へ入った友人を死なせてしまい、死人を生き返らせることができるという寺を訪ねて古道を旅して行く。その旅路を手伝ってくれるのは古道で生まれ育ったという青年。彼自身の存在が古道の中にも人情があることを教えてくれる。
食うか食われるかの世界にも人情はあるのだ。
そしてどんなに願っても叶えられないこともあるのだ。
だからこそ、古道の外で人は一生懸命生きるのだろう。
恒川光太郎。必読です、そして次回作にも大いに期待です。