江戸初期、若い男子ばかりが罹る流行病が流行し男子の人口が激減。治療法も分からぬまま80年余りが経過し男子の人口は女子の4分の1となった江戸中期。男子は生存率の低さから子種を持つ宝として大切に育てられ、女子があらゆる労働力の担い手となり家督を継ぐことなる。将軍徳川家も例外ではなく、3代将軍家光以降将軍職は女子へと引き継がれる。大奥は貴重な男子のうち美男3000人が選りすぐられ将軍に仕えるという、将軍以外の女人禁制の館となっていた。男女の立場が完全に入れ替わった男女逆転大奥を描く物語。第5回センス・オブ・ジェンダー賞特別賞、第10回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞。
(よしながふみ)1971年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業。漫画家。 『月とサンダル』 でデビュー。 『西洋骨董洋菓子店』 で講談社漫画賞少女部門受賞。主な著書に 『愛すべき娘たち』 『フラワー・オブ・ライフ』 『きのう何食べた?』 など。
将軍が女性になり、美男3000人が大奥を構成する。という突拍子もない設定であるにもかかわらず、中身は濃い作品。将軍家という権力を維持するために奔走し、また翻弄される人々を描いたヒューマンドラマです。若い男性だけが罹るという不治の病、そのために男子の人口が激減、江戸時代の日本はまさに 『種の存続』 のために男子が貴重とされた、という設定そのものがまずスゴイ。
1巻は 【暴れん坊将軍】 こと吉宗の時代。質素倹約を旨とした吉宗(女性)、彼女は粗末な木綿の紬に身を包み、贅沢華美な大奥の有様を嘆きながら、なぜ大奥が作られたのかに迫ろうとします。彼女自身の慣例をことごとく否定する暴れん坊ぶりも、側近である大岡越前や加納久通(いずれも女性)の丁々発止ぶりも小気味よく、見事です。そして吉宗は大奥が作られた3代将軍家光の時代の物語を聞くことになり…。
2、3巻は家光の時代。家光までは将軍は男性だった事実!流行病で後継ぎがないまま急逝した家光の死を隠すため、春日局が将軍として据えたのが、唯一家光の血を引くまだ少女であった娘だった。というすごい物語。将軍の影武者を置き、少女に男子の格好をさせ、そこまでしてなぜ将軍家を維持しようとするのか。家とは、国とは、戦乱のない世とは何か。その維持継続のために、個人はどこまで自分を犠牲にならなくてはならないのか。
などなど、なかなか考えさせられます。何よりもこの誰も思いつきもしない 【男女逆転大奥】 というアイデアと、それを奇抜なアイデアだけにせず、男女の持つジェンダーの違いを真摯に捉えた展開が素晴らしく、目が離せない作品です。
続きが早く読みたいけど、じっくりたっぷり読みたい。そんなマンガです。
評価:(愛読者多し)