誰も私を知らない遠い場所へ、そしてそこで全てを終わりにしよう。自殺願望を持った主人公が辿り着いたのは山奥の民宿。あとは首尾よく自殺するだけ。しかしそこで思いがけず、そこに生息する多くの 『生』 である村の人々や生き物という穏やかな生活と出逢い、主人公の意識は徐々に変化していく。
〈瀬尾まいこ〉1974年大阪府生まれ。大谷女子大学国文科卒業。『卵の緒』 で坊っちゃん文学賞大賞、『幸福な食卓』 で吉川英治文学新人賞を受賞。
物語の主人公 千鶴は自殺をしようと身辺を片付け、全額貯金を下ろし、『いかにも自殺にふさわしい』 山奥の村へと出向く。そこにたった一軒ある民宿で睡眠薬を大量に飲み自殺を図るが、単に一昼夜ぐっすり眠っただけで何ともなかった。というところから話が始まります。
自殺すら満足に出来なった自分に愕然としながらも、せっかくなので?のんびりした村の生活をしばらく楽しもうとする千鶴。
村に一軒しかない、しかも客は2年ぶりという民宿たむらを拠点とし、1ヶ月ほど滞在しながら千鶴は村の人々の素朴な半農半漁の生活を見ているうちに、徐々に自分を取り戻す、という話なのですが、残念ながら今回の話は少し手抜きかと感じる位、あまり心に残らない内容です。
というのも主人公千鶴の悩みはあまりにも自分自身だけの問題であり、それに対して何らかの対策や抵抗をした形跡もなく、恋人との付き合いと別れもあまりにも適当で、こんなに適当に生きてりゃそりゃどこかで行き詰るでしょ、とこっちがツッコミ入れたくなります。
でも、こんな風に何となく生きて、それに何となく疲れて、何となく自殺しちゃおうかな、という人が今日増えているのかもしれません。
結局千鶴はここは自分の居場所ではない、そして自分の居場所を求めてまた元暮らしていた所へ帰るところで終わるのですが、その心境の変化までもが 『何となく』 に思えちゃって、『再生小説』 というより 『何となく小説』 になっちゃってます。
もう少し、民宿たむらの田村さんとの関係をしっかり描ければ、そして千鶴自身をしっかり描ければ面白い内容になったと思うのに。
何となく生きていると何となくな結果しか出ませんよ、という教訓だと思えばいいのかな。
評価:



(辛口で3)
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