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村田エフェンディ滞土録*梨木香歩

murata.jpg時は明治時代、1890年末。日本とトルコの文化交流のため国費留学生としてイスタンブールを訪れ滞在することになった考古学者の村田。イギリス人である下宿の女主人、奴隷身分である使用人のトルコ人、下宿人のドイツ人にギリシャ人。異国で更に様々な異文化にもまれながら暮らす村田が経験した、不思議な体験や生涯忘れえぬ異邦の友との友情を描く。『本の旅人』 連載を単行本化。
(梨木香歩)1959年生まれ。児童文学者のボーエンに師事。 『西の魔女が死んだ』 で日本児童文学者協会新人賞、『裏庭』 で児童文学ファンタジー大賞を受賞。主な著書に 『エンジェルエンジェルエンジェル』 『村田エフェンディ滞土録』 『春になったら苺を摘みに』 、絵本に 『ペンキや』 『マジョモリ』 『ワニ』 『蟹塚縁起』 など。

1899年、スタンブール。考古学者の村田は土耳古を訪れる。 『トルコ』 ではなく 『土耳古』 である。そこで出会った異邦人達、イギリス人である下宿のマダム、マダムの使用人のトルコ人奴隷身分であるムハンマド、同じ下宿人の独逸(ドイツ)人のオットー、希臘(ギリシャ)人のディミトリス。出てくる言葉使いも文字も明治風であるので時々注釈が入らないと分からない(笑)、それがまたこの時代だという雰囲気を盛り上げています。

『埃及から同胞が来たので迎えに行く。君府を経由して波斯へ行くのだと言う。』
イスタンブールはかつては君府、コンスタンチノープルと呼ばれていた。埃及はエジプト、波斯はペルシャ。

…などと覚えかけた頃、読み終わってしまった(笑)。トルコという遥かな異郷。そこで日本人である村田の異邦人達との触れ合い。宗教、風習、価値観の違いに戸惑いながらもそれを受け止め、互いを思いやろうとする下宿の人々と、村田も自然と思いやりを育んでいく。

評価:(5つ満点)

ムハンマドの身分はあくまでも 『奴隷』 ではあるが、トルコにおいて奴隷は決して非人道的な立場ではなくむしろ日本の奉公と同じことだと村田は言う。その証拠にムハンマドは結構いばっていたりする(笑)。
娘夫婦についてイギリスから渡ってきた下宿の女主人は、娘夫婦の帰国後なぜか共に戻らず単身トルコに留まり、外国人向けの下宿を営みトルコ女性に英語を教える。
そしてドイツからはオットー、ギリシャからはディミトリスの学者達。これだけ個性豊かな人々が集まれば一筋縄では行かないような気がするが、彼らは上手く折り合っている。それは文化宗教の違いはあれ、人としての思いやりは同じ、ということを彼らが日々身をもって実践しているからではないだろうか。

入院中の日本人を介抱するために村田は病院へ日参するが、病院食が合わない彼のためにムハンマドは日々快く食事を作り持たせてくれる。ある日ディミトリスが醤油を手に入れてきてくれた。中国製のソイソースではなく本物の日本の醤油。村田が感動して礼を言うとディミトリスは一言つぶやく。
『私は人間だ。およそ人間に関わることで私に無縁なことは一つもない。』
(テレンティウス、古代ローマ劇作家)

村田がもらった稲荷像を下宿へ持ち帰ると、下宿の建物に使われた建築材(古い遺跡の石らしい)に宿るトルコの古代の神々と反りが合わず、夜な夜な派手なケンカ?をする様子や、雪が降ったある日村田とオットー、ディミトリスが3人で雪合戦をしてそれぞれの子ども時代の思い出や文化を語り合うシーンもいい。

今の時代ほど外国との交流が盛んではなく、異邦人とは互いに探り合うような存在であった時代に、トルコという東西文化の交叉する地で、異邦人であるマダムの下宿に集まった同じ異邦人である学者達。これこそがまさに異国で交わした生涯の友との魂の交歓録と言えるだろう。

やがて村田を始め皆はトルコのクーデター、戦争、帰国という荒波に飲み込まれてゆく。帰国後受け取った手紙で村田はかつて下宿屋で飼っていたオウムを引き取るものが誰もいなくなったことを知り、そのオウムをトルコからわざわざ取り寄せる。このオウムこそが、彼らの友情を見ていた唯一の生き証人となったのだから。

『家守綺譚』 の綿貫と高堂もしっかり登場します。主人公が村田、綿貫と来たから次回作の主人公はやっぱり高堂でしょう、期待してます。
今回の著作も読み終わった直後よりも、しばらく経ってからしみじみと響いてくる小説でした。梨木香歩はこの点で本当に、素晴らしい作家だと思います。

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Comment

次回

  • 小琴
  • 2007-08-29 13:28
  • edit


AKMさんの書評。


本もさることながら

AKMさんの
読後感も  とても楽しみです。



確かに 
のちになって  しみじみしてくる、


いつまでも 登場人物の 存在感が消えない。

綿貫、高堂、村田、そして 犬も
どこかで 確かに生きてる、   気がする。

次回作 あるんでしょうか?

絶対に

  • AKM
  • 2007-08-30 21:47
  • edit
次は高堂で行きましょう。
小琴さんのお好きなゴローも出てくることでしょう。

私の書評など…ハッキリ言ってネタバレばかりだし
正しい書評とは言えませんが、
自分による自分のためのブログ、であるので
何卒ご容赦くださいね。

と言うのも始めのうちネタバレを書かないようにしよう、
と思っていたのですが
そうすると言いたいことが言えないのです。
それでは本末転倒かな、と思い
今では思いっきりホンネ感想ばかりです。

…いえ、ちょっとカッコつけも多いです
これからもよろしくお願いします、
オススメ本どんどん教えてくださいね。
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1972/02/16
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