失踪した夫を思いつつ恋人と付き合う京(けい)。実母と同居しながら一人娘を育てて来た。夫が遺した日記に 『真鶴』 の文字を見つけたためなのか、京は何かに惹かれるように幾度も真鶴へ向かう。単身で、娘を連れて。そのたびに自分に 『ついてくるもの』 を感じつつ、自己の中の夫への感情を思い起こしてゆく。 『文學界』 連載を単行本化。 芸術選奨文部科学大臣賞受賞。
(川上弘美)1958年東京都生まれ。お茶の水女子大学理学部卒業。『神様』 でパスカル短篇文学新人賞、『蛇を踏む』 で芥川賞、『溺レる』 で伊藤整文学賞、女流文学賞、『センセイの鞄』 で谷崎潤一郎賞を受賞。 主な著書に 『竜宮』 『古道具中野商店』 『ニシノユキヒコの恋と冒険』 など。
正直言って、良かったのかどうか分からないくらい、読んでいて辛い本だった。何度も涙でページがかすんだ。これでもかこれでもか、と主人公 京の心情が押し付けられ、本当にキツイ。ハッキリ言うとこういう本は精神衛生上あまり良くない…。
川上氏独特の言い回しがやはり多い。一人娘の百(もも)が生まれた時の回想。
『愛しい、というよりただ、近かった。』 愛しい、と感じる以前に子どもは自分から出てきた存在であり、ただただ自分に近しい存在だということしかできない、という京。
10数年も前に失踪した夫、恋人との関係も順調に長く続いており、実母と娘との女3人の暮らしもどうにか成り立っている日々の中で、どうしても断ち切れない夫への想い。そしてそれに気づいている恋人からの非難。自分でも消化しきれない気持ちが、京には
『ついてくるもの』 を出現させる。
評価:



(5つ満点)
しばしば京には 『ついてくるもの』 が感じられる。それらは雑踏で突然自分の側に寄り添いはじめ、話しかけてくる。振り切ろうとしても振り切れないのに、返事をして欲しい時には忽然といなくなる。もちろんこの 『ついてくるもの』 は京自身の内面から出てくる感情であることに説明の余地はないのだが、それでも自分でも納得しきれないこの存在を内から出てきたものとは到底認められず、自分にとっては 『ついてくるもの』 として認識しようとする京の不安定さが、また読んでいて辛い。
京は45歳。いつまで悩みつづけなくてはならないのだろうか。それとも人生とは誰にとっても、こうして悩みながら続いていくものなのだろうか。
やっぱり川上弘美は、私にはキツすぎる。しばらく封印します(苦笑)。
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