2016年1月、18歳のジン・カイザワは南極海の氷山曳航を計画するシンディバード号にオーストラリアから密航する。乗船を許されたジンは厨房で働く一方、クルーや研究者たちのために船内新聞を作る記者となった。多民族、多宗教の船内でジンはアイヌの血を引く自らのルーツを強く意識する。様々な知的冒険と難問に出会い、ジンが最後に見たものは。『東京新聞』 ほか連載を単行本化。
(池澤夏樹)1945年北海道生まれ。都立富士高校卒業、埼玉大学中退。詩人、翻訳家、小説家。翻訳はギリシア現代詩からアメリカ現代小説など幅広く手がけている。 『スティル・ライフ』 で中央公論新人賞、第98回芥川賞、『母なる自然のおっぱい』 で読売文学賞、『マシアス・ギリの失脚』 で谷崎潤一郎賞、 『花を運ぶ妹』 で毎日出版文化賞を受賞。主な著書に 『キップをなくして』 『静かな大地』 『きみのためのバラ』 など。
池澤夏樹の、しつこさが好きですね。今回も結構しつこいです。このくどくどした感じが好きなのでくどくどした文章が好きじゃない方にはお勧めできません。ができたら読んでいただきたいです。
ちょっとだけ近未来。水不足の世界では南極の氷山をオーストラリアまで持ってくるという巨大プロジェクトが行われる。ジンはその船に密航することにした。年若いジンはアイヌの血を引いていることで幼い頃から家族が苦労する姿を見て育ち、自身は狭い日本を飛び出し高校からニュージーランドで暮らしている。その彼はもちろん英語には自信があり、生きぬく力はその辺の18歳と比べると抜群にある、という設定。いいねぇそういう若者を敢えて描く。狭い船内での権力闘争、恋愛模様、また巨大プロジェクトに対するクルーそれぞれの微妙な思惑の違い、そしてプロジェクトそのものに反対する謎の環境団体の攻撃など、飽きさせません。多くの困難に出会いながらもジンは自身の持つ 『生き抜く力』 で乗り越えていく、こういう若者が21世紀もわんさかいればいいんですけど。
ちょっと近未来でファンタジーでありながら、現代に対し希望を失うまいとする池澤夏樹の文学、私好みです。この本映画化したら面白いだろうなぁ、氷山引っ張ってくるところとか。
評価:(5つ満点)