手仕事を営む職人たちの心に灯ったのは仕事に対する念であった。それはやがて殺意に増殖し冷たい惨劇を招く。線香、着物の染色、杜氏、宝飾、能面、提灯など、それぞれの職人の静謐な世界を舞台に描いた6作品。
(乃南アサ)のなみあさ。1960年東京都生まれ。早稲田大学中退。広告代理店勤務等を経て作家活動に入る。『幸福な朝食』 で日本推理サスペンス大賞優秀作、『凍える牙』 で直木賞を受賞。主な著書に 『涙』 『鍵』 『しゃぼん玉』 など。
(収録作品)青い手/鈍色の春/氷雨心中/こころとかして/泥眼/おし津提灯
『青い手』 がベスト。家業の線香作りのことでからかわれ、父親が初めから自分にはいないことに引け目を感じている少年が主人公。やがて彼自身も母と祖父母を手伝い家業を継ぐ自覚に目覚め、秘伝の香の 『材料』 を手に入れることを決心する。
家業を継ぎ主人となった少年は幼馴染みと結婚するが、妻である彼女から告げられた、少年の日の思い出で、彼は初めて後悔することになるのだろうか。深い余韻を残す物語。
その次は 『泥眼』 かな。梨木香歩 『からくりからくさ』 にも能面が出てきたな。
いずれも伝統的な手工芸を通じ、それに込められた人の想い、怨念を描いた作品集。乃南氏得意の 『余韻の残るラスト』 を目一杯感じられる作品集。
評価:(5つ満点)