大学の時に両親を交通事故で亡くしてから天涯孤独で独身であった久美。母の妹であった時子叔母が亡くなり、叔母が預かっていたという先祖伝来の 『家宝』 である 『ぬか床』 を叔母のマンションと共に相続したのだが、なぜぬか床が 『家宝』 なのか?手入れを怠ると呻くぬか床を抱え、途方にくれていた久美だったが、ある日ぬか床に突然卵が沸いてきた。そしてその卵が孵って中から出てきたものは…。
家族とは、種の存続とは、生命とは何か。どこから来てどこへ向かうものなのか。全ての生き物が問い続けながら生きている大いなる疑問に挑んだ、著者の渾身長編。
(梨木香歩)1959年生まれ。児童文学者のボーエンに師事。 『西の魔女が死んだ』 で日本児童文学者協会新人賞、『裏庭』 で児童文学ファンタジー大賞を受賞。著書に 『エンジェルエンジェルエンジェル』 『村田エフェンディ滞土録』 『春になったら苺を摘みに』 、絵本に 『ペンキや』 『マジョモリ』 『ワニ』 『蟹塚縁起』 など。
最初はホラー系ファンタジーかと思いました。少なくとも1章、2章の最初まではそうなのですが、その途中から様相が変わってきます。久美が2章で出てきたカッサンドラを
『私はこの人を知っている』 と自覚し始める箇所。ぬか床に卵が湧き、それが孵り人が出てくる。夢か幻かと思う間もなく、3章では突然の場面展開となる。
実はこういう、突然場面が入れ替わりそれまでの内容と繋がらない形態の小説は苦手でした。一瞬読めなくなる気がしてくるからです。でもここで私はこれまで学習してきた
『分からなくてもとにかく読み進む』 で読む進むことができました、とにかく読み進む。それを実践できた小説でもあります。
評価:





(5つ満点)
この小説で物語は2系列で進行します。主人公 久美の存在する 『現社会』 での物語と 『かつて白い草原のあったシマ』 で展開される 『僕』 の物語。それらはあまりにも現実と非現実、現世と異世界かのような印象で、突如3章で出現した 『僕』 を中心とする 『シマ』 における物語に読者は誰もが面食らいます。シマって何?僕って誰?叔母達って誰?
物語は、事の発端が全て 『先祖伝来のぬか床』 にあると確信した久美が行動を起こす場面へ戻ります。ぬか床に不安と怯えを感じながらも、ぬか床の前の管理者である故人となった叔母の知人 風野と共にぬか床をあるべき地へ戻そうとする久美。こうなると物語の冒頭のホラー的展開はどういう意味?ダミー?そしてまた出てきた 『僕たち』 の物語を挟み、ぬか床は故郷は戻っていく。
…不思議すぎる不思議な物語。民俗学、というより発生学の話。生命とは、種とは何か?という問いかけまである。答えは今も出ない、だが出ないことが今、私達が生きているという証なのかもしれない。ううーん、と唸ってしまう物語だった。どうしたらこんな話を思いつくのか…梨木香歩の奥深さにまたも感嘆してしまう物語です。
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