大人達は中学生活は温室だと言う。社会はもっと厳しいのだと。でもここは息苦しくて狭くて、早く逃げ出したい場所だ。でもどこにも逃げ出せる所はない。自分で自分の居場所を見つけようとする中学生の日々を、現役中学校教師である著者の目が捉える。『野性時代』 連載に加筆修正。
(瀬尾まいこ)1974年大阪府生まれ。大谷女子大学国文科卒業。『卵の緒』 で坊っちゃん文学賞大賞を受賞しデビュー、『幸福な食卓』 で吉川英治文学新人賞を受賞。著書に 『図書館の神様』 『優しい音楽』 『強運の持ち主』 など。
現役中学校教員である著者が中学生を主人公にした本作。大人達から見れば 『温室』 のように暖かでガラスに囲まれ安心して暮らせるかのような中学校生活は、実は子ども達にとっては息苦しい世界でしかないことを、正面から捉えた作品。
主人公の一人称は同じ中学3年であるみちると優子が交互に入れ替わります、この趣向も面白い。みちるはみちるの信念を貫きたいと思い、優子はそんなみちるの一途さを直視できず別室登校になりやがて不登校教室へ行くことになる。こう書くと、逃げないみちるとすぐ逃げ出してしまう優子、のように見えるが問題はそんなに簡単なことではない。
誰しも直面しなくてはならない厳しい現実がある、しかし時にそれは直視しがたいほどの辛さを伴うこともある。それから一旦退避する、というのは実は大変賢い方法なのだ。
それを知っている優子はみちるにも退避して欲しいと思う。しかし一本気なみちるにはそれができない。
大人になる、ということは徐々に自分の置かれている環境を理解し、時に対決し時に退避する、という能力を身に付けていく、ということだと思う。その発達途中にいてどちらも自分ではまだ判断し切れない中学生達は、実は一番苦しんでいる存在なのかもしれない。
しかし、2人はお互いのことを思い、できる範囲でお互いをフォローし合う。『クラス全員のパシリ』 を自称する斉藤君も、不良の伊佐君も、優子やみちるを時に助けてくれ、それに2人とも気付いているのだ。
誰しも1人きりではなく、誰かのために存在している。そのことを自覚した時から人生は変わってくる。
逆に言えばそのことに気付かないでいる人は、歳は取っていても永遠に本当の友情にも気付かないし、大人にもなり切れない。
そんなことを考えた作品でした。瀬尾まいこはやっぱりいいなぁ。
評価:




(5つ満点)
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