川辺康之。39歳開業医、妻も医者で子どもなし。自由を謳歌できる理想的な暮らしを営む彼は、実は連続レイプ犯だった。嫉妬、妄想、昻奮、そして狂気。川辺はどこへ向かうのか。『野性時代』 『小説野性時代』 掲載を単行本化。
(桐野夏生)1951年金沢市生まれ。成蹊大学卒業。『顔に降りかかる雨』 で江戸川乱歩賞、『OUT』 で日本推理作家協会賞、『柔らかな頬』 で直木賞、『グロテスク』 で泉鏡花文学賞、『残虐記』 で柴田錬三郎賞、『魂萌え!』 で婦人公論文芸賞、『東京島』 で谷崎潤一郎賞、『女神記』 で紫式部文学賞、『ナニカアル』 で島清恋愛文学賞を受賞。 また 『OUT』 で日本人初のエドガー賞候補となる。
久々にミステリ調の群像小説です。登場人物らが次々とつながっていく様子はパズルのようで面白いです。レイプ犯の開業医が主人公の小説、と聞いてどんな恐ろしい内容か…と心配していたので、実際には各章毎に主人公が入れ替わる群像物でちょっとホッとしました。こういう群像物は本当に難しいと思うのですがさすが桐野さん、視点の切替え方がすごいです。男の視点も女の視点も見事に切り替えられてます。
完璧な犯罪計画を立てたはずの川辺が、徐々に追い詰められて行く様子。現代の社会生活に深く深く食い込んでいるインターネットというもう1つの 『社会』 。それらの関連付けも秀逸です。普通関わり合いを持たないアパート在住者同士の集まり 『ピーフラ会』 も興味深いです、思わぬ人と人がつながることで、バラバラだった川辺の犯罪がつながっていく様子、悪は滅びるのだ!というよりやはりこういうことは破綻するようになっているのだとしみじみ思います。
川辺、公立病院勤務医である妻カオル、カオルの不倫相手である救急救命医(つまり医者の花形)玉木、かつて共同経営者で今は故郷の病院を継いでいる(つまりボンボン2代目)野崎、と全員が医者という社会的責務の重い立場にありながらあまりに身勝手、というか考え方が幼稚である様に、今のオトナをよく描いているなぁと感じてしまいました(私もか?)。
【余談】 単行本化にあたり主人公の名前が 『川辺』 に改められたようです。同姓同名とか抗議があったとか?
評価:(5つ満点)