吉原の遊女、朝霧は残り数年で年季を終えて吉原を出て行くはずだった。その男に出会うまでは…。生まれて初めて男を愛した朝霧の悲恋を描く受賞作ほか、吉原を舞台に遊女達の叶わぬ恋を綴った連作短編集。第5回女による女のためのR-18文学賞大賞、読者賞同時受賞。
(宮木あや子)1976年神奈川県生まれ。本作で 『女による女のためのR-18文学賞』 大賞と読者賞を同時受賞しデビュー。著書に 『雨の塔』 『白蝶花』 。
女による女のためのR-18文学賞、というのもやたらに興味深いですが、そういう視点(どういう視点?)でなくともこの作品は素晴らしいです。連作短編集として構成が完璧であり、素晴らしいの一言に尽きます。短編を重ねるごとに人物相関の複雑さ、設定の見事さが生きてくる感があります。
舞台に江戸・吉原を選び、そこでの因襲に縛られながらも日々生き抜いている遊女達のたくましさ、儚さ、愛しさを描いている作品。登場する女たちは本当に可愛い。午後、風呂屋の帰りに手をつないで茶屋へ行く、茶屋で切り子のコップをどれにしようかと悩む様子は幼い少女のようで、頼るものもなく心許ない身の寂しさを同じ境遇の遊女同士で慰めあっている様子を非常によく表現しており、作者の遊女ら登場人物への愛情が感じられるのだ。
連作としては夕霧の回が本当に見事、夕霧の弟 東雲が花宵道中の回に絡んでくるところもおおおっ!と思わせます。
間違いなく実力派。やはり素晴らしいの一言です、必読。
評価:(5つ満点)