珊瑚21歳、シングルマザー。生まれたばかりの雪を抱え、明日生きていくのに必要なお金もない追い詰められた状況で、ある女性と出会い温かい言葉とスープに生きる力を見出す。やがて珊瑚は食を提供する店を経営することを計画する。珊瑚と雪と、周囲の温かい人々との触れ合いと成長を描く。
(梨木香歩)1959年鹿児島県生まれ。児童文学者のボーエンに師事。 『西の魔女が死んだ』 で日本児童文学者協会新人賞、新美南吉児童文学賞、小学館文学賞、『裏庭』 で児童文学ファンタジー大賞、『沼地のある森を抜けて』でセンス・オブ・ジェンダー賞大賞、紫式部文学賞、『渡りの足跡』で読売文学賞随筆・紀行部門を受賞。主な著書に『からくりからくさ』 『エンジェルエンジェルエンジェル』 『村田エフェンディ滞土録』 『春になったら苺を摘みに』 、絵本に 『ペンキや』 『マジョモリ』 『ワニ』 『蟹塚縁起』 など。
珊瑚、シングルマザー21歳。0歳児の雪を抱え仕事なし、夫なし、親なし、家なし。と言うとさも悲愴な状況ではあるのですが、あまりそう感じさせないのはやはり梨木香歩はファンタジー作家だからでしょうか。梨木作品に限っては現実味とかそういうことはあんまり考えないのです、考えなくてもいいのです。既に世界観ができあがっているからです。そんな梨木香歩が、好きなんです。
本作の主人公の珊瑚はこれまでの主人公達とちょっと違っていて、何となく結婚しちゃって何となく夫は出て行っちゃって、自分はとても困った状況にあるんだけど、どうしようかな。という雰囲気の少女なのです。そう、おかあさんだというのにまだまだ中味は少女なんです。そこでこの珊瑚に対しどんな想いを抱くか。普通の本なら人物描写がイマイチだとか言いそうな私ですが、梨木作品だとそれもアリかと思ってしまう。この梨木マジック、スゴイです。
ということで全面的に珊瑚と雪の味方で物語は進んで行きます。珊瑚は運良く、本当に運良く、素晴らしいベビーシッターに出会い、彼女から料理を教わりそれをカフェにすることを思いつき、一緒にやりたいと言ってくれた大学生の女の子をアルバイトに雇い、無農薬野菜を作っている農家に出会い、そして森の中の素晴らしい一軒家を見つける!とまぁ良いこと尽くしでこれまた他の作品なら 『………』 とか私は言いそうですが、それも梨木さんの世界ならOKなのです。何度も言いますが、梨木香歩は私には特別なのです。
それで終わってもよいのに、本作では珍しく社会の毒のようなものが出てきます。読了後もなぜこの毒を描いたのだろうか、必要ないのではないかとまで思ったのですが、敢えてこの物語に毒を盛り込んだ梨木さん。それが現実ということかもしれません。でも私は私達の生きる社会に毒は必要ないと思うのと同様、梨木作品には毒はいらないと、思うのです。
愛らしい雪と、珊瑚に。そして周囲の美しい人々に。現代のファンタジー作品として楽しんでください。
評価:




(ファンタジーを愛するあなたに)
PR