名前も思い出せず顔もおぼろげにしか覚えていない。だがかつて同級生だった3人の心には、あの日以来 『F』 が棲みついている。40歳を過ぎた今彼らの運命を動かすのは。野性時代掲載を単行本化。
(吉永南央)1964年埼玉県生まれ。群馬県立女子大学文学部卒業。本作収録の 『紅雲町のお草』 でオール讀物推理小説新人賞を受賞。著書に 『オリーブ』 『誘う森』 。
(収録作品)右手/黒いチューリップ/夜明け前に/時
1章がやたらにキツく、ずっとこの調子か…と思っていたら2章、3章とFの印象が徐々に変化していき、終章の主人公がF自身の物語で本当に救われました。この章がなかったら大変なことになっていた(私の気持ちが)。
決して目立つ存在ではなくむしろ日陰ばかりを歩んできた少年Fが、大人になったあの日。1、2、3章それぞれの主人公らの現在の暮らしとは全く関わりのない生活を送っているFが、ぞれぞれの人生に色濃く影響している理由とは。それがやはり終章で明らかになる、F自身の持つ 『優しさ』 なんだろうなぁ。
人の心は本当に単純なものではない。けれども単純に、もっとシンプルに生きてもいいんじゃないかな。とFの背中を見て思いました。読了してから、そしてしばらく経ってからもじわじわと攻めてくる、やっぱり吉永南央の筆力は、すごいです。
評価:




(5つ満点)
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