13番目のエッセンス
強烈な映画だった。そのストーリー、主役ジャン・バティーニの不幸な生き様、そしてラストシーン。
ジャン・バティーニを演じた新人ベン・ウィショーの確かな演技が見事でした。彼でなければあの深い深い悲しみを湛えたジャン・バティーニを体現できなかったでしょう。
ジャン・バティーニが遺したかったもの。それは香りに込められた
『愛情』 であったのだと思う。生れ落ちた瞬間から愛情を知らずに育った彼、常に自分が捜し求めているものが愛情でありながら、その愛情そのものを知らなかった彼。
ジャン・バティーニは類まれなる嗅覚を持ちながらも、自分自身には体臭がないことに気付き愕然とするシーン。自分はまるで霧か霞と同じではないか。そのような自身の存在を呪い、彼は自分自身の存在をどうにかして世に遺したいと願った。
これは人として当然、むしろ必然の欲求でしょう。だが彼は最後に、本物の愛とは作り出すものではないということに気付いてしまう。そこから来る悲劇のラストシーン。
ジャン・バティーニの悲しい、辛い想いが、ベン・ウィショーのうつろな表情と痩せた身体から常に発せられており、観客に強烈に訴えかけています。彼の存在は、香水作りの町とそこに暮らす富裕層の人々の持つ明るさ、華やかさと相対して余計に際立ち、いたたまれない思いにさせられます。
アラン・リックマンが良かったですね。初老の役でしたが実際にちょっと年取ったかも…。あと残念だったのはナレーションが多すぎたこと。ジャン・バティーニの心情をいちいちナレーションで流すほどでもなかったのでは…というシーンがやや多かったような気がします。シーンを観ていれば分かることまでいちいち言われるとしつこいような気がする。その点フランス映画なら逆にナレーションがなさすぎて分からない部分もあるんだけど(笑)。特にラストのラストでは解説は蛇足でしょう。
恐い映画ですので中学生以下の方には不向きです、ご注意。
評価:




(5つ満点)
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