ホームルーム、裁判員制度、死刑。この3つに共通する最大の注意点はなんでしょう? 『罪と罰』 『『冤罪』 『裁判員制度』 『死刑』 について著者の考えを中高生に向けて語る。
(森達也)1956年広島県生まれ。立教大学卒業。テレビディレクター、映画監督、作家。早稲田大学客員教授、明治大学客員教授。『A2』 で山形国際ドキュメンタリー映画祭審査員特別賞、市民賞を受賞。主な著書に 『下山事件』 『ドキュメンタリーは嘘をつく』 など。
十分大人だというのに相変わらず世の中のことに疎いというか関心が薄いため、前半から中盤はなかなか進まず苦労しました。間に2冊も他の本よんでじゃって、やっぱり私は実用書が読めないなぁ(しかもYA向けなのに)と思っていたところ、4章死刑に入ったらがーっと行けました。本書の言いたいことはこの4章にあるこの一文です。
もしもあなたが死刑はあって当たり前だと思うのなら、本当はこのスイッチを刑務官にばかり押しつけないで、あなたも押すべきなのだ。
この一文を書くために、森氏は中3の公民の内容を身近な例を挙げながら分かりやすく解説してくれたのです…にもかかわらず読めないとか言ってゴメンなさい。
そもそも世界各国で死刑廃止が広がっているにのなぜ日本は死刑存置を続けているのか。君は考えたことがあるか?というのが本書のテーマ。そう考えたことなかった…そこからまず始めることが必要です。そしてオウム(地下鉄サリン事件)以降、マスコミと政府が煽り続ける 『危機管理』 の風潮。世の中は怖いんだよ、危険がいっぱいだよ、だから人を疑って気を付けなきゃいけないよ、という風潮。それにより死刑存置支持が上がっているという現実を、私達大人ももっと真剣に考えなくてはならないのです。
1章(罪と罰)、2章(冤罪)、3章(裁判員制度)、4章(死刑)。この構成も見事です。社会(政治)に疎い私にもよく分かりました。オウム以降の市民の安全に対する感覚の変化が、現代社会を作ってることは間違いなく、社会が危険だという認識は死刑制度を存続させている。しかしそもそも死刑は何のため、誰のためなのか?安易なポピュラリズム(世論に迎合する)にアナタも踊らされていないか?という森氏の強い訴えは、現代社会を担う大人の一人である私達にも、重く響きます。
最後に森氏は 『僕は、この本で君(読者である中高生)に僕の考えを押しつけすぎてはいないだろうか。どうか君たちは自分の頭で考えて欲しい。』 と結んでいます。僕の考えはこうだ、しかし君は僕の考えが正しいかそうでないか、自分で考えるべきなのだ。とまで言ってくれる森氏。それは私達大人にとっても、同じことなのですね。
評価:(5つ満点)