高級すき焼き屋でアルバイトをはじめた中国人留学生の虹智。日本人と結婚した姉の家に居候しながら大学へ通い始め、慣れない着物を着てのアルバイトに苦労する日々。義兄とうまく行っていない様子の姉は韓国ドラマに夢中、大学での留学生仲間である韓国人の賢哲は虹智に夢中、義兄は仕事に夢中。そして虹智はなぜか店の店長に夢中になっていくのだった。高級すき焼き店を舞台にした、虹智の目からみた日本社会とは。『新潮』 掲載を単行本化。
(楊逸)ヤン・イー。1964年中国ハルビン市生まれ。お茶の水女子大学卒業。在日中国人向けの新聞社を経て中国語教師。『ワンちゃん』 で文學界新人賞、『時の滲む朝』で芥川賞受賞。他の著書に 『金魚生活』 。
高級すきやき店はやっぱりイイ!と思いました。じゃなくて、高級すきやき店で展開される人間模様に日本社会の縮図を描いた、というと大げさでしょうか。主人公の虹智から見ると色々なことが非常に面白くなります。いつも違う社長さんと来る 『水商売』 のシヅクちゃん、仲居仲間が 『あの人は水商売だから』 を虹智は 『水道局?』 と思ったり、虹智に優しく接してくれる無口でニヒルな店長とか、世話焼きの仲居頭のヨリコさんとか、すきやき屋に日本社会が詰まっている感じ。
楊氏の描く世界も固まってきましたね、この主人公の視線を通じて、世の中を一歩引いて見通そうとする視線、これが魅力ですね。全編を通じ、何となく日本語が正しく表現されていないかのような違和感、も妙に心地よいです。今後もこの透明感を失わずに書き続けて欲しいです。
評価:(5つ満点)