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アンボス・ムンドス*桐野夏生

img20060427.jpg人生で一度の思い出にと周囲に内密にキューバで一週間の逢瀬を過ごした若い女教師と不倫相手の教頭を帰国後待っていたのは、担任児童の死と非難の嵐だった。表題作を含む、人間の持つ激しい負の感情を洗いだした7つの短編集。『オール読物』 他掲載をまとめる。
(桐野夏生)1951年金沢市生まれ。『顔に降りかかる雨』 で江戸川乱歩賞、『OUT』 で日本推理作家協会賞、『柔らかな頬』 で直木賞、『グロテスク』 で泉鏡花文学賞、『残虐記』 で柴田錬三郎賞を受賞。 また 『OUT』 で日本人初のエドガー賞候補となる。
(エドガー賞)米国探偵作家クラブが主催する米国ミステリー界最大の文学賞。推理小説の父エドガー・アラン・ポーにちなみ1946年に創設。
(収録作品)植林/ルビー/怪物たちの夜会/愛ランド/浮島の森/毒童/アンボス・ムンドス


久々の桐野夏生の短編集。どれも良かったですが、私は表題作でもある 『アンボス・ムンドス』 が一番良かったです。アンボス・ムンドス、とは 『裏表』 という意味だと文内にありました。この世は全て裏と表で成り立っているのかもしれない。そのような物語です。

どの作品も人が持つ 『心の裏側』 について書かれています。こう書くとゲッソリ来そうな内容かと思われそうですが、そこでただゲッソリするだけではないところが不思議な、桐野作品の魅力です。
どの作品にも現実の生活に疲れ、鬱屈した感情を持て余している主人公達が存在しています。そしてその主人公一人一人が、決して他人事ではなく自分のことではないか、とハッとさせられるのです。

また桐野氏は好んでよく社会事件や事象を元にした作品をこれまでも長編でも多く手がけていますが、今回も 『植林』 では 『グリコ森永事件』『浮島の森』 では作家 谷崎潤一郎と同じく作家 佐藤春夫との 『妻譲渡事件』 がモデルになっています。

評価:(5つ満点)


■ 1930/08/18 谷崎潤一郎、佐藤春夫に妻を譲る

 8月18日、作家の佐藤春夫が谷崎潤一郎の妻と結婚、話題となった。
 谷崎は以前から千代子夫人の親類の女性と恋仲になり、夫人を冷たく扱うようになった。その夫人に同情し愛するようになったのが佐藤である。佐藤にも妻がいたが、もともと冷めた関係だったためその春に離婚。谷崎も夫人と離婚することになった。
 さらに人々の注目を集めたのは谷崎、千代子、佐藤の3人の連名で出した次のような声明書である。
 『…我等三人はこの度合議をもって、千代は潤一郎と離別致し、春夫と結婚致す事と相成り、…素より双方交際の儀は従前の通りにつき、右御諒承の上、一層の御厚誼を賜り度く、いずれ相当仲人を立て、御披露に及ぶべく候えども、取あえず寸楮を以て、御通知申し上げ候…』
(読売新聞社 『読む年表・20世紀と昭和天皇』 より抜粋)

昔の作家って今の作家よりも遥かに破天荒な人生を生きていたんだなぁ、とか思ってしまいました。この事件をご存知の方は多いかと思いますが、本当に色々あったそうです。

今回この事件をモデルにした 『浮島の森』 が良かったのは、主人公を妻と一緒に譲られた娘、としたところです。もちろん谷崎、佐藤両作家の氏名はフィクションで書き換えられています。大学教授である主人公の夫はしばしば学生を家に連れ帰りごちそうしてやるのですが、そうして家に来る学生にも自分がかの有名作家の娘である、ということで注目されてしまうことをいつも憂いでいる彼女。当事者(両親)達の思惑に巻き込まれながらも 『子どもであった』 という理由で自分の意志も意見も通せなかった彼女の持つ心の確執に着目したところが面白いですね。

こう考えると桐野氏はこの頃特に主人公達の 『子ども時代』 に焦点を絞って多く小説を書いているような気がします。大人になると忘れてしまっている、もしくは忘れたいと思っていた事実は実は消え去ることなく自分の中に存在している。そんなことを考えさせられる作品が多かったです。

『アンボス・ムンドス』はキツイです。そして悲しいです。

小学校教員であった主人公はたった一回だけのつもりで不倫相手の教頭とキューバに旅行をし、成田空港へ戻ったところで大勢のマスコミに取り囲まれます。担任であった女子児童が事故で亡くなった、その間連絡先としてそれぞれが置いていったものが全くのデタラメであったことが周囲の人々に分かってしまった。

降りかかり続ける主人公への非難、受難。
教員を退職し塾講師として働いている彼女の回想という形で物語は一人称の語り口で進みます。それがどうしてかが判明するのがラスト。
なぜこのような事態になったのか、それは一番憎まれていたのが自分であったからだ、と語る彼女。

嫉妬が憎悪に変わる。そして憎悪を抱く理由とは、本人にしか分からないものなのでしょう、例えそれが抱かれる側にとっては全く理不尽で納得の行かないものであっても。

前半の4編はちょっと押しが弱いですが、後半3編は必読です。
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