ベトナム戦争末期。軍属として働くフィリピンとアメリカのハーフのジェイン、サイパン移植中に戦禍に遭った朝栄、基地内でバンド活動をするタカ。沖縄カデナ基地の中と外を結んで巨大な米軍への抵抗を試みた小さなスパイ組織があった。著者の10年に及ぶ沖縄での経験と思索のすべてを注いだ長篇。『新潮』 連載を単行本化。
(池澤夏樹)1945年北海道帯広市生まれ。都立富士高校卒業、埼玉大学中退。詩人、翻訳家、小説家。翻訳はギリシア現代詩からアメリカ現代小説など幅広く手がけている。 『スティル・ライフ』 で中央公論新人賞、第98回芥川賞、『マシアス・ギリの失脚』 で谷崎潤一郎賞、 『花を運ぶ妹』 で毎日出版文化賞を受賞。主な著書に 『キップをなくして』 『静かな大地』 『きみのためのバラ』 など。
池澤氏渾身の作。年末にこんなヒットに出会えるとは。と忙しい中必死に読み進めました。物語はジェイン、朝栄、タカ、三人のそれぞれ一人称の章が入れ替わり進みます。沖縄における米軍基地という異形の存在に対するそれぞれの思い。軍属であるジェイン、沖縄からサイパン移植後戦禍から逃れてきた朝栄、そして若いタカ。それぞれの立場、信念、そして行動を見事に描ききっています。
本当に池澤作品は小説として破綻がないことはもちろん、ここまで異なる立場の人物らをそれぞれ一人称で語らせて見事に書き分けていることに、感動を覚えます。もちろんそれが小説というものなのですが、たまに中途半端な群像劇を読むにつけこうした見事な小説が一方に存在することに改めて感動を覚えてしまうのです。
ちょうど沖縄普天間基地の移設問題が上がっている昨今、沖縄における米軍基地の存在意義について考えさせられました。基地に対する思いは決して一言では言い表せない、本当に複雑な事情がそこにあります。自分の行動が人の命を救うことになる。と言われたら貴方はどうするか。を正面から問う作品であると同時に、正義とは信念とは何か、を問われる作品です。
評価:(5つ満点)