キップをなくしたら駅から出られない。キミはこれから私達と一緒に駅で暮らすのよ、ずっと。キップをなくした小学生のイタルは同じようにキップをなくした子ども達の集まる東京駅で暮らすことになった。駅の人達はイタル達を 『駅の子』 と呼ぶ。駅の子になったイタルは東京駅で生活し、仕事をすることになった。
『野性時代』 連載を単行本化。
(池沢夏樹)1945年北海道帯広市生まれ。都立富士高校卒業、埼玉大学中退。詩人、翻訳家、小説家。翻訳はギリシア現代詩からアメリカ現代小説など幅広く手がけている。『スティル・ライフ』 で中央公論新人賞、第98回芥川賞、『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、『花を運ぶ妹』 で毎日出版文化賞を受賞。
池澤夏樹、初めて読みました。
最近若手作家ばかり読んでいたので、今年で61歳の池澤氏の作品、違和感を感じるかと思ったら驚くほど年齢を感じさせない文体でした。少年のような人なのかもしれません。
本作は池澤氏の著作の中では異色作なのかもしれません、ファンタジーです。
それも最近の凝った仕掛けのミステリーやファンタジーに慣れてしまった身には、設定もすごくあっさりしているし、主人公や読者にも不可解な部分が多いところも、それはそれでいいか、と思わせてしまう力量がスゴイなと思いました。
評価:




(読了感の良さでオマケ)
池澤氏は旅が好きで旅をテーマにした著作が多い、とありましたが、本作の舞台は東京駅。旅の出発点であり、到着点でもあります。登場する子ども達それぞれのキャラクターが確立しているところ、そして 『駅の子』 と共に暮らす駅で亡くなった子ども 『ミンちゃん』 の存在は大きいです。
ミンちゃんは天国へ旅立つ決心がつかず、『駅の子』 と呼ばれる 『ステーションキッズ』 達と東京駅に留まっているが、その決心をつけさせてくれたのも子ども達である。
ステーションキッズとは何者なのだろう。
読みながら何度も考えた。見えているのに見えない存在。その仕事は通学途中の子ども達の安全を守ること。知らず知らずのうちに子ども達はステーションキッズに守られて通学を続けている。そのためにステーションキッズは存在しているのだが、それを始めた 『幻の駅長』 の存在とは何か。
私達大人も、本当は子どもを守っているのではなく子どもに守られているのかも。とステーションキッズ達やミンちゃん、ミンちゃんのママを見ていて思った。
なかなか面白い仕掛けの物語です。読了感も爽やかです。
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