20XX年 掃除は日本固有のスポーツとして古代から連綿と続きつつ、知らされない理由により政府の統制下におかれていた。高校の掃除部に所属する樹を中心に、掃除に青春をかける高校生らを描く。『失われた町』 『刻まれない明日』 続編。『野性時代』掲載を加筆・修正し単行本化。
(三崎亜記)1970年福岡県生まれ。熊本大学文学部史学科卒業。『となり町戦争』で小説すばる新人賞受賞、第133回直木賞候補作。主な著書に 『失われた町』 『鼓笛隊の襲来』 『廃墟建築士』 。
三崎ワールドがついにジュブナイルへ。三崎が作品を通じて描くパラレルワールド、不可思議世界の位置付けが、本書で少年を主人公に据えることでハッキリしてきたと思います。舞台である
『この国』 の抱える複雑な事情、不可解な因習の数々である、かつて人が暮らしておりその人々が一斉に消え去ったという事実(失われた町、刻まれない明日)や、40年前の大きな戦争がきっかけでそれ以降国の体制が大幅に変わったこと、などなど、大人の目から見れば市民生活にここまでの制限がかけられていることに対してもっと強い反発や憤りがあるだろうと考えてしまうけれど、主人公が高校生ということでその
『不可思議な』 『理解できない』 様々な事象や制限事項も受入れざるを得ない、としているところで一つの完全な世界が見事にできあがる、というわけですね。
自分を取り巻く様々な現象を理解できない、が自分は高校生という立場であるから受入れざるを得ない。所属する運動部である
『掃除部』 の競技についても、なぜ高校の3年間しかできないという政府の縛りがあるのか?大学以降はなぜ(スポーツとしての)掃除はできないのか?なぜ国内にプロ掃除士(?)はおらず国外(西域)へ行かなければならないのか…と言った様々な疑問についても、答えが出ずともとりあえず受入れざるを得ない、という状況。これはいいですね、納得できないけど納得してしまう、ファンタジーとはそういうものですね。
評価:




(掃除というか舞踏ですねコレ)
主人公 樹を始め掃除の後輩 偲、掃除部のボンクラ先生である寺西顧問、お嬢様学校へ通う謎の幼なじみの梨奈と同じく謎の権力者らしいその父親、など設定は完全にドラマというかマンガなのですが、そのバカバカしさを徹底してマジメに語る、という三崎の手法についに本書で完全に慣れたと言いますか、受入れられたように感じました。掃除のルールとかスポーツとしての成り立ちとかはもうオタクレベルでしつこく説明があるのですが(笑)、そのしつこさがやみつきでくどくどした文章に当たっているとそれだけで何となくその世界を身近に感じてしまい、その世界に入り込んだような気がしてしまいました。
前作、前々作から登場している居留地や西域、と言った区域についても徐々にその形が定まってきたように感じます。連載中の続編があるそうなので、この後は先の戦争の事実や 『正国史』 と呼ばれるこの国の歴史、そして晴れて国技となるのか掃除?という謎が次々と明かされるのを楽しみにしています。オタクワールドもここまで突き抜けてくれれば、読者はもう付いていくだけです。
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