金のため男に抱かれることに疲れ始めたカズミ。ベルリンのガイドで生計を立てる美貌の男カール。地方銀行に勤める平凡な会社員の昌明。一見平凡に平和に暮らす人々の影にある、危うげな生活を描いた短編集。
(桐野夏生)1951年金沢市生まれ。『顔に降りかかる雨』 で江戸川乱歩賞、『OUT』 で日本推理作家協会賞、『柔らかな頬』 で直木賞、『グロテスク』 で泉鏡花文学賞、『残虐記』 で柴田錬三郎賞を受賞。 また 『OUT』 で日本人初のエドガー賞候補となる。
(収録作品)デッドガール/六月の花嫁/蜘蛛の巣/井戸川さんについて/捩れた天国/黒い犬/蛇つかい/ジオラマ/夜の砂
読み逃していた短編集、出版がやや古いためかそれほどインパクトがなかったかな。たくさん短編が入っている中のベスト3は以下です。
■ 黒い犬
日独ハーフのユウリは日本にいてもドイツにいても自分の居場所を見つけることができない。久しぶりに帰国した日本のかつて子ども時代を暮らした家で、なぜか忘れていた子どもの頃の記憶を思い出す。その記憶をたどることで思い起こされる、数々の出来事。母の言った 『忘れた方がいい思い出もある』 という一言が沁みる。
■ ジオラマ
矛盾しているがやめられない、という人間の身勝手さを描いた作品。いつも思うのだがどうして桐野氏は男の心理を書かせるとこうも秀逸なのだろう。男とは不条理な生き物である、ということを分かっているからだろうか。
■ 井戸川さんについて
可笑しさの中に怖さがある作品。これぞ小説。
評価:



(5つ満点)
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