イタリアで働いていた娘が妊娠し帰国する。娘のお腹に宿る赤ん坊はどこから来たのだろう。ある日突然娘の体内から不気味な声が語りかけてくる。イタリア語で海を意味するイルマーレと名乗る声の主はいったい何者なのか?生命の誕生と進化の神秘に迫る。
(村田喜代子)1945年福岡県生まれ。『鍋の中』 で芥川賞、『白い山』 で女流文学賞、『真夜中の自転車』 で平林たい子賞、『龍秘御天歌』 で芸術選奨文部大臣賞を受賞。2007年紫綬褒章受章。主な著書に 『雲南の妻』 『蕨野行』 『十二のトイレ』 など。
生命の進化の歴史?ですかねこのテーマは。イタリア在住中に妊娠し帰国してきた娘、無職のイタリア男の婿付き。それだけでも頭を抱えるようなことなのに、同じく娘夫婦に対して不機嫌ながらも同居のため家のリフォームに嬉々としている夫にもやはりイライラする、初老のマサヨの独り語りで、ある日突然娘のお腹の中の赤ん坊がその前世の記憶をマサヨに語りかけてくるという物語。
妊娠って確かに異形な感覚かもしれない。娘がこれまで良く見知っていた娘ではなくなり更にその娘の中に悪魔が巣食っているような。マサヨの妄想と言えばそれまでかもしれないけど自らについて種の進化から語りかけてくる悪魔はあまりに生真面目で滑稽で、横柄ながら憎めない存在です。
終盤赤ちゃんはついに生まれますが、生まれたと同時にあのおぞましい悪魔の声はマサヨには聞こえなくなるのかと思うと、マサヨ同様少し残念に思えてしまう、なんとも不思議な感覚の物語。装丁もなかなかですね。
評価:(5つ満点)